卒業まであっという間だった

3年間なんて、短いもので

これまでの事を振り返ると色々あったなと思い出す

もっとこう、色々と浸りたいのは山々ではあるがそうもいかんのは人気者の宿命だ

「「東堂様〜!ご卒業おめでとうございます」」
「写真撮ってください」「ボタン!ボタンを下さい!」「東堂様!」「東堂くん〜」

「まあ、慌てるな。オレは逃げん。写真も順番に撮ろう」

「「「キャー!優しい〜 」」」


学ランじゃないからボタンの数なんて知れている
カッターシャツのボタンも全部持っていかれて、女子のパワーには圧倒されるな

アオと待ち合わせているのに中々抜けられず待たせてしまっていて申し訳ない気持ちになる

窓に映る自分を見れば、酷い事になっていて苦笑い

髪の毛を軽く整えてから、急いでアオの元へ向かった

「待たせたなアオ!」
「ううん、お疲れ様尽八くん」

手を広げれば、飛び込んで来るアオを受け止めて
それが堪らなく幸せに感じた

「わぁ、凄いね!ボタンゼロ!」

嫌な顔をしないでくすくす笑うアオは優しいと思う

「はは、まあオレだからな。こうなることは予想済みだ。そうだ…アオ」
「え、これ…?」
「ああ、アオ欲しいって言っていただろう」

オレはカチューシャを取って、アオにつけた

「うむ、良く似合う。流石アオ」
「え、いいの?嬉しい〜」

ネクタイじゃなく、ボタンじゃなく、カチューシャって所がアオらしい
何故かと聞けば「これが尽八くん、って感じだから」と笑って言うんだ

カチューシャは色々持っているが、3年になって1番気に入って使っていたヤツをアオにあげた
アオもよく似合っていて可愛らしい

「今日で最後だね」
「そうだな」
「あっという間だったね。ここでの思い出、忘れないだろうなぁ」

付き合ってからよく訪れた空き教室
2人だけの秘密の場所

ここで過ごした時間はオレも忘れないだろう

「私ね、転校するの凄く嫌だったんだ。仲良い友達と離れたくなかったし、知らない土地は不安だったし」
「そうだろうな」

基盤が出来上がってる中で、見知らぬ土地に来るのは誰でも不安だろう

「だけど、今は箱根に来てよかったと思ってるよ。とても単純で現金なヤツだけど…尽八くんに出会えたから、来てよかったって心底思ってる」

「オレも、アオに出会えて良かったと思ってるぞ」

オレだって心底思ってるよ
アオに出会わなければ…

きっとまだ、人をここまで好きになっている事などなかっただろう

それも悪いことではない

だけど、もうこの感情を知ってしまったから
こんな風に人を愛おしいと、思える事が幸せで

まだ未熟な人生の中でも知れた、幸せな出来事だと思う

「寂しいね」
「そうだな」
「次は大学かぁ。離れちゃうの寂しい。でも…これからも一緒に居られるんだよね?」
「ああ、引越しまでそうないぞ。学校は離れても一緒に居られるなんて実感が湧かんな」

夢みたい…

と嬉しいそうに呟くアオが可愛くて、頭を撫でれば擽ったそうに笑う

「これから先、不満とか出てきたら我慢しないできちんと話して欲しい」
「ん、それは私も一緒だよ。嫌われたくないし、直すところは直したいもん」
「それはオレも同じ。一緒に住むとなると、色々違いが出てくるだろう。取り返しのつかないケンカになる前に話し合いたいんだ」
「うん、私も同じ気持ちだよ」

これから先、ずっと一緒に居るなら
きちんと話合っていかなければいけないと思う
お互い納得出来るように折り合いをつけながら、仲良く居れたらいいなと

この先、大学を卒業した後の事を…
早くもオレはもう考えているなんて、アオは想像もつかないだろうな

それはまたいつか、その時が来たらきちんと言うよ

子供の戯言だと、大人は笑うだろうか

だけど、もう見つけてしまったんだ
きっとこれからもこの気持ちは変わらない

そんな風にしか思えなくて

だけど、今はまだ学生らしい付き合いを楽しんで…
色々と思い出を作っていきたいと思う



「アオ、これからもよろしくな」
「うん!こちらこそ、宜しくね」

見つめ合って、そのままお互い顔を近づけ


「お!お楽しみの所悪いね」
「いたか、東堂!ったく…こんな所でヤラシーな」
「……!!!」

「な、な!?何故お前らここにいる」

「アァ?部室集合だって連絡行っただろ?ちゃんと見ろよバァカ」
「そもそもこの教室教えたのオレだぜ?」

迂闊にも鍵を閉め忘れてた!
すまない、とアオを見ればクスクス笑って「待ってるから行っておいでよ」と言う

本当に良くできた彼女だと思う

「じゃ、ちょっとかりるねェアオチャン」
「気安く名前で呼ぶな!!」
「アオちゃん、すぐに終わると思うから後で校門前で写真撮ってあげるよ」
「え、新開くんいいの!?」
「ああ、どうせ2人で撮ってないだろ?」
「うん!嬉しい!ありがとう〜」
「お前も気安く名前で呼ぶな!アオも無視しろ!」

笑って誤魔化すアオを見て、敵わないなとオレも笑った

「すぐ戻るから待っていてくれ」
「うん!行ってらっしゃい」




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「今日の帰りは何時頃だ?」
「今日はバイトもないし、17時頃かな?」
「そうか…今日もオレの方が遅いな、すまない」
「ううん、謝ることじゃないでしょ。待ってるの、嫌いじゃないよ」
「そう言ってくれて助かるよ、ありがとう。じゃあ行ってくる」


卒業して、一緒に住み始めてひと月がたつ
今の所、喧嘩もなく平穏な日々を送っている
朝、どちらかが家を出る時に玄関前で話すのは日課になっていて

「うん、尽八くん…気をつけて行ってらっしゃい」

そう笑って見送ってくれるアオは今日も可愛らしい

これからもずっとそうやって過ごしていけたら、と思いつつ
アオに軽く口付けて、家を後にした

今日はアオの好きなケーキを買って帰ろう

…なんて家を出たばかりだと言うのに、もう帰る事を考える自分に心の中で苦笑いをした


それでも幸せだと感じて、この青い空の様にオレの心は今日も晴れやかだった



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