17.優しさに癒されて

インターハイも終わり、ライバルも遠くに行ってしまった

めまぐるしく過ぎて行く日々

自分の中では色々気持ちの整理だってついているのに、時々無性に苦しくなる
別にそれがどうこうなる訳でもなく、結局はいつもと変わりなく過ぎて行くのだけれど

前を向けば可愛い彼女がいて
今日は天気がいいから屋上で昼を共にしている
そう言えばお昼の時はいつも向かい合わせで座っているな
意味はないけど何となく、顔が見たくてそうしているのだと思う

何となく自分の気分が乗らない時でもアオの顔を見ていたら癒されるもので

「尽八くんどうしたの?」
「いや、何でもないぞ」

アオはいつもオレを気遣ってくれて
ちょっとした変化でもスグに気付くからこちらが驚かされる
顔に出ていたのだろうか
どうしても彼女といるときは気が緩んでしまう

かっこいい自分であり続けたいと思っているのになかなか上手くいかないもので
それでも全部受け止めてくれるのだろうと思うとどうしても甘えてしまっている気がする

しかしやはりカッコ悪いのは好かん
だから極力、何事も無かったかのようにいつも装うんだ

「お疲れですか?」
「いや、大丈夫だよ」

何となく

抱きしめたい、と思った

しかしこんな所ではいけないだろう
ああ、なんで今日は空き教室にしなかったんだ

とにかく今アオの体温を感じたい
あの甘い匂いも感じたい
だけど、疎らではあるが人がいる所で抱きしめたら迷惑がかかる

オレは無意識にため息をついていたようで

そんなオレの顔をジッと見ていたアオと目が合う

ニコっと柔らかい笑みを浮かべられて思わずドキッとしたではないか
可愛いよ、本当に

だから抱きしめてしまいたいのに

こんな目の前にいて何故それが出来ないのだろう

触れ合いたいが為に今更空き教室に行くのもどうかと思うし

もどかしい、とまた何故か苦しさが渦巻いた


「尽八くん」
「ん?」

アオが自分の肩をトンと指を指す

一瞬頭がついて行かなかったが、すぐに彼女の意図を理解した

敵わないな

もうそのひと言で

アオの肩に自分の額をつける
遠慮がちにつけたのに、アオの腕がオレの頭と首に絡み付いてきて

そんな事、アオは普段なら絶対にしないのに

でも今はそれに甘えたくて、何となく目を閉じた

息を吸えばアオの匂いがするし
オレの髪を優しく撫でるアオがたまらなく愛おしくて

言葉がなくとも伝わってくる、彼女の優しい気持ちにオレは何度癒されただろうか

かっこよくあり続けたいのにそうさせてくれなくて
それでも、この優しさを求めるオレは何処か矛盾しているな

もっとアオを感じたくて、オレもアオの背中に手を回す

「ありがとう、アオ」

オレがそう言えば「私が甘えたくなっただけだよ」なんて言う彼女は何処までも優しい


予鈴が鳴ってもまだ離したくなくて
もう先程までいた人の声も聞こえない

だからもう少し、今日だけは許してくれ

顔を上げればアオの顔が近くて
目を見ればまたアオはニコっと笑うんだ

「アオ」
「ん?なぁに尽八くん」

「キスがしたい」

オレがそう言えば少し頬を染めながらも「どうぞ」と目を閉じるから

オレはアオの頬に手を添えて

あぁ、この白くて柔らかい頬も好きだなとふと思った
それがほんのり赤く染まるとまた可愛くて

愛おしい

その気持ちでいっぱいになる

「アオ、好きだよ」

好きだ。本当、心底に

そのまま口付ければ柔らかい唇も愛おしくて、もっと感じたくて

ほんの少し…のつもりだったのに結局、チャイムの音が鳴るまで離せないでいた

授業を遅刻したのはお互い初めてで

慌てて走った
手を繋いだま走って……

その手を離すのを忘れたまま教室に入って、クラスメイト達にさんざん冷やかされたのもいい思い出になるだろう

結局自習だった運の良さに、流石オレと笑えばアオは「ホントそうだね!」って笑って頷いてくれるから、何処ぞの野獣とは違い本当に優しいなと思ったのだった







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