とんでもない人が恋人になったと思う


福富くんと言えばこの学校で知らない人はいない有名な人
本人は寡黙だけどとても目立つし、その周りの人達も個性的で目立つ人ばかりだし


去年同じクラスだった新開くんは別として、自転車部の人とは縁なんてないと思ってたし、ましてやその主将の福富くんなんて世界が違う、雲の上の人だと思ってた


全然知らない状態から少しずつ話すようになって、少しずつ彼のことを知っていった
とても真っ直ぐな人、そう思ったんだ

自転車に乗る姿を初めてちゃんと見た時も真っ直ぐな走りだなぁって思って、その時自分の語彙力の無さに落胆した
もっと上手く表現できたらいいのにって



「お疲れ様!見てたよ!」
「ああ。気づいていた」
「そうなの?」
「山田の姿は不思議とすぐわかる」

福富くんは真っ直ぐ私を見て言う
その視線も誠実さと優しさが入り交じってて、それだけでなんか大切にされてるなって思うのはおかしいかな

「そっか、なんだか照れるね。それにしても福富くん!って感じの走りだったよ」
「???」
「ごめんね、上手く伝えられなくて。力強くて真っ直ぐで速くて、かっこよかった」

私も負けじと福富くんの目を見て言った
照れくさいけど、私もきちんと伝えたいと思ったから

そうしたら、福富くんは口を一文字に結んで固まってしまった

「福富くん?」と呼んでも反応がない
でも目線は私の方を向いている

私も福富くんの顔をマジマジと見て気づいたんだ
福富くんの耳が赤い事に

そんな福富くんが可愛くて、なんだか完全無欠だと思ってたのに人間らしい感じがして、そんな部分を知れたことが嬉しかった


「また走ってる所見に行ってもいい?」

福富くんの手を引いて少し屈んだ体制になった彼の耳元でそう言ったものの、ちょっと強引だったかな…と恥ずかしくなってすぐに手を離してしまった

いきなりの事で福富くんも戸惑ってるかなと不安げに見たら、やっぱり少しぽかんとした顔をしていたけど

「ああ。何時でも。嬉しいものだな」

そう言って優しい顔をして少し笑ったんだ

その顔はズルい
だって私が見に来て嬉しいって、言葉だけじゃなく表情がそう言ってるんだもん

「つくづく思う。オレは山田が恋人なのが嬉しいと」


本当に、ズルい




福富くんとお付き合いするようになってから、その周りの人とも話すようになった
新開くんはまだ去年同じクラスで話した事はあるけど、東堂くんや荒北くんとも

東堂くんも荒北くんもタイプは違うけどどっちも関わる事なんてないと思ってたけど、意外に気さくで福富くんのことを教えてくれる
みんな福富くんのことが気になって心配してるんだと思う

福富くんは仲間にも愛されて凄いなぁって感心する


お昼休みも何度かご一緒させて貰ってる
そして今日もご一緒させて貰うんだけど、福富くんだけがいない

「あれ?福富くんはまだかな」
「あー…まァ後で来るから」
「用事を済ましてから来るそうだ。先にお昼を頂こうか」
「そうそう、女子に呼び出されてたな。告白か?」
「バッ!新開、てめぇ!!」
「???」
「全く、新開は…。山田さん案ずるな。フクは山田さん以外は無い」

福富くんは新開くんや東堂くんみたいにキラキラ目立つ訳じゃないけれど
寡黙ながら真っ直ぐで真面目で優しい所に好きになる女の子は沢山いてもおかしくないから

だから告白なんてきっと沢山あるだろうし、仕方ない事で

「ありがとう、大丈夫だよ。福富くんと付き合うのにそんな事いちいち気にしてられないよ」
「ヒュウ!さすが山田さん!」
「うむ、フクの恋人に相応しい考えだな」
「まぁ大丈夫だろ、福チャンならって噂をすれば何とやら…福チャン!」

荒北くんが呼んだら福富くんがこっちに気付いて走ってきた

「遅くなってすまない」
「全然!」
「別にィ」
「早く食おうぜ、寿一」
「そうだな」


皆、何事も無かったかのようにお昼を食べて雑談をして…
告白の事、全く気にならないと言えば嘘になるけど
心配はしてないけど気になる

けどそんな事聞くことでもないし…と私は気持ちを切り替えた



その後、教室に帰ればクラス中が大騒ぎ
というか教室までの帰り道もザワついてて

「福富くん、恋人出来たんだって!!!!」

そんなことを誰かが言った


今までは告白をされても
「今はそんな事は考えられない。すまない」だとか
「恋をする暇がない。すまない」とか
「部活に集中したい。すまない 」とかそんな事を言って断っていたらしく

それが今日、誰かが福富くんに告白した時

「大切な恋人がいるから応えられない。すまない」

と福富くんは言ったらしく福富くんに恋心を寄せてる子、ファンの子その他もろもろ阿鼻叫喚だったそうだ

恋人は誰だ誰だの大騒ぎ

別に福富くんと付き合ってるのは隠してはないけど、いちいち大っぴらに言ってない

仲良しの友だちには言ってるけどそれくらいで

友だちにも「大変な事になったね」なんて言われてしまって苦笑い

別にバレてもわたしはいいと思ってるけど、福富くんはどうだろうか
煩わしい事は嫌かもしれない…なんて悩むのも杞憂に終わる



福富くんの部活が始まる前、一緒に玄関まで向かった
そのまま私は花壇に、福富くんは部室に向かうのに途中まで一緒に行こうと誘ってくれた

そう言えばこうして普通に2人で歩く事もあるのに周りの人に何も言われないのはまさか私が恋人だなんて思われてないから…なんだろう

福富くんに告白した面々を聞いた時、キラキラした可愛い子ばかりだったから…まさか良くも悪くも普通の、可もなく不可もなくの私が恋人だなんて誰も思わないのかもしれない

気楽だと言えば気楽だけど、少し悲しい気もするのは何故だろう
ちっぽけなプライドなのか、釣り合ってない気がする寂しさなのかわからないけど…

私がしょうもない事を考えてたら、福富くんが心配そうな顔でこっちを見る

「どうした?」
「ううん」
「何かあるのならきちんと話して欲しい」

オレは女心とやらに疎いから、気付かない事が多いと思うから何かあれば話して欲しい

そんな事を言う福富くんは本当に優しい


「福富くんは私でいいのかな?って」
「どういう事だ?」
「うん、なんか良くも悪くも普通の私が恋人でいいのかなって」

だって学校一の有名人の恋人が私でいいのかなって
周りの反応見たら嫌でも考えてしまう
今まではそんな事、考えたこと無かったのに現実を見たらいきなり不安になってしまった

福富くんは立ち止まって前を歩く私の手首を掴む

「オレは、山田の事を好いているし、心底山田が綺麗だと思ってる。山田が恋人になってくれてこんなに喜ばしい事はない」

真っ直ぐ

福富くんは本当に真っ直ぐこっちを見てストレートに言葉を紡ぐ

「ありがとう。素直に嬉しい。ごめんね」

私も福富くんに好きになって貰えてこんなに嬉しい事はないよって言ったらちゃんと伝わったようで口元に少し笑みを浮かべてうん、と力強く頷いてくれた


私が不安に思う事は、真っ直ぐ思いを伝えてくれる誠実な福富くんに失礼だったかもしれない


花壇の仕事も一段落して、福富くんの部活姿を見ようと福富くん達が練習している所に向かう

丁度休憩中らしく、女の子達に囲まれていた

「「福富くん!福富くん彼女出来たの?」」
「ああ」
「「誰?」」
「山田アオだ」

女の子達にハッキリと伝える福富くんの姿に目眩がした

けど


「…!山田」
「「山田!?!?」」

福富くんが私を呼ぶから…視線が痛い


「今日は暑い。涼しい所で見ていた方がいい」
「う、うん。ありがとう」

「ちょっと福富くん!この子が彼女なの!?」

「ああ。彼女とオレは交際している」

阿鼻叫喚

だけど福富くんは全然気にしてなくて
私ももう考えるのをやめた

本当にとんでもない人が恋人になったと思う

本当にびっくりする位真っ直ぐな人

そんな彼に真っ直ぐ想われる私は世界一の幸せものなのかもしれない




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「あー…すげーな。福チャン大胆つーか」
「ヒュウ!寿一らしいな」
「む、今日はギャラリーがフクに向いてるな?」
「ッセ!今はそれ所じゃねェんだよ!」


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