一週間後、全部活が休みになったとミーティングで福ちゃんが言っていた

自主練でもすっかァとか考えてたけど、そういやアイツと出かけたりした事なかったな…ってふと頭を過ぎった

周りがデートだなんだって浮かれててもオレらはそんな暇もねェし
まぁケド毎日一緒だからオレはそれで不満はない

…が、女ってのは違うぞと、新開やら東堂に散々言われてゲンナリしてたしあんまりない休みだから何処か行くか

なんて柄にもないことを考えてはため息が出る

ンなもん何て誘えばいいのか知らねェし


部誌を書いてるアオを待つ
今日の事とか友達ん事とかアレも聞いて聞いてと話が尽きないアオに、よくもまァそんな話す事が出てくんなと感心する

｢ねぇ先輩｣
｢ンだよ｣
｢今度部活休みになった日あるじゃないですか？来週の土曜日｣
｢おー｣
｢自主練しますか？？｣
｢何も考えてねェよ。アオは何かあんのかよ｣
｢私は何も…先輩と一緒に過ごしたいなって。自主練するなら付き合わせて下さいね！｣


謙虚…なのかもしれないコイツは
ワガママで頑固だけど、基本的にワガママの種類が違う気がする

何処か行きたいとかもっとワガママ言いそうなのに、そゆ事は一切言ってこねぇのな
一緒に居れたらそれでいいって

健気っつーか…
そんなアオを見てたらな…たまには何かしてやってもいいかもとやっぱ思っちまう

｢自主練は考えてねェよ。あー…どっか行きたいとことかあんのかヨアオは｣

｢へ？どっかって？｣

｢どっか行きたい所あったら付き合ってもいいけどォ｣


上手く誘うなんざ出来る訳もなかった
でもよ、アオの顔はびっくりする位嬉しそうに笑っててコレでいいか…なんて思ったりして


｢あの、あの！家に…実家に荷物取りに行きたいんですけど着いてきてくれますか！？｣

｢いいケド｣

｢やった！いいんですか！？お母さん喜ぶだろうなぁ｣

｢は？｣

｢お母さん先輩に会いたいって言ってたし、うちのネコもきっと先輩と仲良くなれると思う！｣

｢ソーカヨ｣


お母さんってンだよ、親いんのかよ…
挨拶しといた方がいいか
それにネコってあの猫な…複雑な気分つーか

そのくだりを奴らに話したら

｢荒北！お前に礼儀作法を教えてやろう！なに、心配するな。オレが教えるんだ、好感度だって上がるだろう。しかし元の人相がそれではな…｣

｢ッセ！｣

｢なんだ靖友いよいよ挨拶か！手土産は必要だぜ。駅前のケーキ屋のうさちゃんクッキーが見た目も味もオレはオススメするよ｣

｢オレがうさぎのクッキー買うのかよ…恥っず｣

｢温泉まんじゅうだ！！！｣

｢お、おお｣

どいつもこいつも言いたい放題かヨ
でもまァ手土産とかいるのはわかってるつーの
何にすっかな…

結局、温泉まんじゅうとケーキ屋の焼き菓子にしといた
和と洋ありゃ大丈夫だろ

電車乗ってる間もアオが喋るのをただ聞いて
あー…緊張してる、かも

確かにオレァ新開や東堂みたいに愛想もねェし
女の親ならオレみたいなの来たらどう思うか

｢お母さんは、先輩みたいな人絶対好きだから羨ましがるだろうなぁ｣

｢それはねーだろ｣

｢なんで！？先輩こんなにかっこいいし優しいもん！｣

｢ハッ！｣

そんな事言うのオマエだけだっつーの
ったく…小っ恥ずかしい事ばかり言いやがって
けどまァ嫌な気はしねぇのな


アオん家の最寄り駅に着いた
手ェ引かれてそのまま着いていく

数分歩けばここだと、あっという間に着いた
アオがインターホンを鳴らせば、バタバタと中から走る音が聞こえる

｢いらっしゃい！！｣

そう笑顔で迎えてくれたアオの母親は、アオの母親だって言われなくてもわかるくらい似ていた

｢ドーモ…初めまして｣

｢荒北靖友くんね！？いらっしゃい！待ってたのよ！上がって上がって！やだ、イケメンじゃないアオ！まぁー素敵！どうぞどうぞ！｣

｢ハ、ハァ…あ、これ｣

｢あら！気を遣わせちゃったわね、ごめんなさいね！やだ！ここの洋菓子美味しいしおまんじゅうも大好きなのよ〜ありがとう！お茶入れるね！さ、早く上がって、アオお部屋行ってなさい｣

｢はーい｣

勢いに負けた
挨拶もまともに出来なかったし…
つーかアオは母親似だと思った


｢ね、お母さんも荒北先輩の事好きなタイプだって言ったでしょ？｣

｢ソウカヨ｣

部屋は意外にシンプルで、でもそれなりにぬいぐるみとかあっからやっぱオンナノコなんだな

｢ネコ！！｣

アオが呼ぶ方を見れば猫がいた
…何か目つき悪くネ？？つーかやっぱ既視感…

猫はオレに近づいて無の顔で匂いを嗅ぐ
フンって鼻を鳴らしてかわいくねーな…って思ったケド、オレの隣にそのまま寝たからちょっと可愛いじゃナァイ！！

猫に逃げられなかったのは初めてだったカラ

｢ネコくんも荒北先輩が好きなんだねー！｣

｢つーか、この猫の名前は何だよそう言えば｣

｢え？ネコ｣

｢ハ？だから、名前｣

｢だからネコくんはネコですよ！｣

｢ハァー？猫にネコって名前付けてんのかよ！｣

｢うん｣

｢ハッ！ダッセ｣

｢ダサい！？うそ！可愛いでしょ！？｣

｢ネコはねぇだろ。他に名前何かあったろ｣

まァでもネコって感じの顔してるか…
そうボソッっと呟けばアオは得意げな顔で頷いて

本当にバカだけど、そゆとこ憎めない

ネコはその後膝の上に乗って来て、そのまま寛いでいた

｢かわい…｣

｢でしょ！？｣

｢ッセ！おい！撮るなバカっ！｣

｢無理でーす！荒北先輩とネコ…はぁ可愛い可愛い可愛い！！東堂先輩達に送ろっ｣

｢オイ、やめ｣

｢送信！｣

｢ハァ…｣

その後無理矢理オレとアオとネコで撮らされて…
断ろうとしたらアオの母親がシャッター押すとか言ってきたから断れなかった

｢きゃー！靖友くんイケメン！｣
｢でしょでしょ！このスリーショットお宝だ！待ち受けにしよっ｣
｢パパに送ろ｣


…もうこの家族は止められねェ
諦めたオレは東堂達からとめどなく流れてくる爆笑スタンプにイラつきながらも、楽しそうなアオを見てたらもう何でも良くなってきた

ネコがオレを見て手を舐める
何となく励まされてる気がして、撫でれば喉を鳴らすネコが今のオレの癒しだった


寮に帰れば奴らがうるさくて
うんざりしながらもとりあえず東堂と新開の頭を叩いておいた

福ちゃんに仁王立ちで迎えられて

｢きちんと親御さんに挨拶は出来たか？｣

って聞かれたから｢まァそれなりに｣って言えば満足そうに頷いていた

｢流石このオレ、東堂尽八直伝の礼儀作法を教えた甲斐があったな｣

｢ハァ？｣

｢うさちゃんクッキー喜んでたか？｣

｢うさぎのは買ってねーし｣

｢温泉まんじゅう！！｣

｢ちゃんと渡したからァ｣


グダグダ絡まれて部屋に戻ればアオからLINEが来てて、今日撮った写メが大量に送られてきていた

ハァ…写メとか好きじゃねェのに

と思いながらも見てみれば、それなりに楽しそうな顔をしている自分がいた

小っ恥ずかしいケド、写メでも満面の笑みのアオを見ていたらそれでいいか…なんて思ったり

たいした事してやれねぇけど

こやって楽しそうに笑っててくれてるならそれでいい

結局何だかんだアオには甘ぇよな
ま、表にゃ出さねェからアオはしらねぇだろうケド

LINEも面倒だし好きじゃねぇから簡単に｢あんがとネェ｣と送れば｢大好き｣と返ってきた

会話になってねーけどここは無視して｢ハイハイ ｣と送ればおやすみなさいのスタンプが来てコレで終わり

物足りない時は電話がかかってくるけど、今日は大丈夫らしい

ネコがオレの膝の上で寛いでる写メを見返して、密かに癒される

また会いてぇな、なんて思ったりして


そしてオレがネコと戯れてる姿を見て笑うアオを思い出せば、今無性にアオに会いたくなった

｢ま、どーせ明日も顔合わすしィ｣

そんな事言いながらどーせ優しくなんか出来ねぇのにな

それでもそんなオレを優しいと言うアオが、1番優しいんだろうなと思った


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