尽八くんに無茶苦茶な事を言ったあの日
もうダメだ…と彼にも別れを告げた
彼は私の事、何となく気づいてて知らん振りしてくれていた
幸せになれと彼にも言われてしまった
優しい人たちを振り回して、酷いことをして私は幸せになってはいけない気がする
今更だよ
尽八くんだって呆れてるに決まってるし、きっと軽蔑してるはず
どうしようもない気持ちを中々消化出来ずにいて、馬鹿な私は風邪ひいたふりをしてここ数日間引きこもっている
テレビもつけず、スマホも電源を切って何もかもから逃げ出して現実逃避して
ベッドでぼんやりしながら寝てるだけ
誰かが来ても母が出てくれるし、私には関係ない
こういう時は実家暮らしで良かったと思う
「アオ〜!尽八くんが来たよー!」
いきなりの尽八くんの名前にフリーズする
ちょっと待って無理だよ
「待って!お母さんっ」
「すまない、来てしまった。その…開けていいだろうか 」
「尽八くん…なん、で」
「開けるよ」
返事を待たずに開ける事、昔から時々あった
それでもそれはそれで全然気にしてなくて
でも今は…
頭まで布団を被る暇もなく、ぐちゃぐちゃの顔を晒す
最低なことをして、こんな不細工な顔も見られて本当にもうなんにも言えない
狡い私は結局何も言えなくて、また醜い涙を流す
私の前に跪いた尽八くんが、私の顔をじっとみる
綺麗な顔の尽八くんに醜い顔の私
なんて滑稽なんだろう
「アオちゃん」
その次の言葉が怖かった、真剣な顔の尽八くん
酷いことをしてきて何を言われても仕方ないのに、怖くて怖く仕方なかった
それでも何でも受け止めなければいけない
自分が蒔いた種だから
「アオちゃん、オレはアオちゃんが好きだよ」
なんで
なんでまだそんな事言うの
「なん、で…私、酷いことばかりしてるのに」
「それでも」
それでも結局、アオちゃんにしか心動かされる事はないんだ
少し震えてる尽八くんの声に、言葉に心臓が震えた
なんでこんな素敵な人が、私を好きでいるの
なんでずっと好きでいてくれるの
「付き合ってる奴がいるのは承知。しかしこの間の言葉を聞いてしまったらいても立っても居られなくてな」
「別れたの」
「ん?別れた?」
「私もずっと尽八くんにしか心動かされなかった。彼は優しい人だったし幸せにしてもらってた。けど、けど尽八くんの事ばかり考えてた。2人に対して酷いことをした私は本当に最低」
悲劇のヒロインかよって周りから見たら笑われそう
どうしたら、素直になれたんだろう
どうしたら間違わなかったんだろう
結局最初から尽八くんが好きだった癖に、逃げて、逃げた先からもまた逃げ出して
最低だと罵られた方が楽だなんて、本当に馬鹿な事ばかり頭を過る
結局、罵られるのも嫌なくせに
「アオちゃんはオレの事が好きなのか?」
「好きだよ、苦しい位に大好き」
ごめん、尽八くん
年上なのに情けなくて
お願いだから嫌いにならないで
そう言い終わる前に、尽八くんに思い切り抱きしめられた
大好きな匂い、落ち着く匂い
ずっと求めてた匂いと温もり
最初から素直に飛び込んでいたら良かった
後悔してもし切れない
「嫌いになんて、なる訳がないんだ。どれだけの間、アオちゃんが好きだったか知らないだろう。アオちゃんだけなんだよ。恋心を抱く女の子はアオちゃんだけ」
「尽八くん」
「アオちゃんが好きだよ。それはずっと変わらないんだ。もういい加減、素直に頷いて欲しい」
付き合って欲しい
その言葉に涙でぐちゃぐちゃになりながら「私も好き」と頷けば、尽八くんは今まで見たことがない位の嬉しそうな顔をしていた
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