万物流転 | ナノ
17.みぎうで4
バックビーグとの命がけの飛行を終えて地上へ戻って来ると、こちらでは恐がる生徒たちが柵の中に入って来ていた。ハグリットは満足そうにそれを眺めて、一頭ずつヒッポグリフを解き放ち、それぞれのグループでお辞儀が始まった。

「どうだ、おれの最初の授業は…?」
「さ、最高だよ!ハグリット!」

もじもじと言ってきたハグリットに本当のことは言えず、僕はすぐに顔に笑みを浮かべてそう言った。ロンとハーマイオニーはネビルと三人で組んでいて、僕が見ている前で茶色の羽のヒッポグリフで練習をしていた。

先輩はハグリットと同じように、困っている生徒はいないかとグループとグループの間を通り抜け全体の見回りをしていた。

マルフォイが三人の大きな子分を引き連れて、尊大な態度でバックビーグのくちばしを撫でていた。そこまでは出来たんだ…と僕は冷めた目でじっと見つめていると、ついにマルフォイは言ってはいけない言葉を口から滑り出した。

「ポッターに出来たんだ…簡単に違いないと思ったよ。
 そうだろう?醜いデカブツの野獣君」

一瞬、鋼色のかぎ爪が光ってマルフォイの悲鳴が聞こえた。ぱっと目を向けると、羽をばたつかせたバックビーグの後方にハグリットが首輪をつけようと格闘しているのが見え、バックビーグの正面には腰の抜けたマルフォイを庇うように先輩が立っていた。先輩の右腕からは真っ赤に滴る血が流れシャツを染め上げている。

一気にクラス中がパニックになり、マルフォイがお門違いに喚いた。ハグリットが猛るバックビーグをなだめていた時、レイリ先輩が「みんな黙りなさい!」と叫んだ。凛としたその声に、誰もが口を閉じてその場に立ち止まった。

「ミスター.マルフォイ、怪我は?」
「…な、な…ない、けど…お前は!」

「それなら結構。ただし、ハグリット先生の指示を全く無視した行動をあなたは取ったので、スリザリンから5点減点します!」

「お、お前さん…血が出てるぞ!は、早く医務室に!」

「焦らないで下さい、先生。それでも魔法飼育学の先生ですか? ほら、私の教訓を生かして生徒に魔法生物の危険性を教えるべきです」

レイリ先輩は腕の傷になんでもないような視線を向けると、蒼白なハグリットに向かってぴしゃりと言った。その姿は、まるでマクゴナガル先生のようだとここにいるマルフォイ以外の生徒は思ったに違いない。

「そして今のように、ヒッポグリフに失礼な態度をとると、どんなしっぺ返しが来るのかと言うことを学ばせるのです」

左手で右の肘を硬く握りながら言った先輩の言葉に、誰もが一層真剣に授業を受けねばと思った。彼女は自分の身をもって僕達にそのことを教えてくれたのだから…。

「ミスター.クラッブとミスター.ゴイルは彼が立つのを手伝いなさい。 皆…何をぼけぼけしているの?ヒッポグリフは待ってはくれないわ」

ちらっとレイリ先輩が視線でハグリットに指示を促すと「じゅ、授業を続けるぞ」と吃りながらハグリットは全体に声をかけた。先輩は巨木の方へ歩いて行き、その陰に身を隠してしまった。

バックビーグは心配そうに彼女の後を追おうとしたが、鎖が邪魔をしてガシャガシャ音を立てるだけだった。

20130815
title by MH+
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