万物流転 | ナノ
12.そうなん9
通路を早歩きで移動していると、最後尾の扉の前にお化け屋敷の煤けたカーテンのような恐ろしい異形のものが漂っていた。私は弾かれたようにローブから杖を取り出して、目の前の光景に戦慄した。ハリーが、その異形のもの――ディメンターに襲われている!

ホグワーツに到着していない特急の通路では魔法を使っては行けないと、パーシー先輩が口癖のように言っているのを頭の隅に追いやって、私はほぼ無意識に杖を振るった。その瞬間、銀色の鴉が飛び出す。

「エクスペクト・パトローナム!守護霊よ来れ!」

ディメンターは、私とそのハリーのいるコンパートメントの中から放出される銀白色の眩い光の波にその場からゆらゆらとカーテンのような身体をはためかせて逃げ去った。

四年生の呪文学でどのような仕組みの魔法かを習った『守護霊の呪文』いわゆるパトローナス・チャームは高等呪文に分けられ「一人前の魔法使いですらこの魔法をモノにするためには手こずります」と担当のフリットウィック教授はおっしゃっていた。

それを使ったものなので、身体の力が抜けて膝はがくがくと震え、今にも通路の冷たい床に倒れてしまいそうだ。そんな私を支えてくれたのは、継ぎ接ぎだらけのローブに白髪の交じった鳶色の髪をした、リーマス・ジョン・ルーピン教授その人だった。

「大丈夫かい?」
「…え、えぇ。…まぁ」

「ほらチョコレートだよ。気分が良くなる。お食べ?
 君がいてくれて助かったよ、名前は、えーと…」

「…レイリ・ウチハ…です。リーマス・ルーピン教授?」
「そうか、ミス.レイリと言うのか!」

私が彼の名前を知っていてちょっと驚いた顔をしたルーピン教授は「わたしは運転手と話してこなければ」と表情を戻して、ちらりとハリーの横たわっている方に振り返った。

「おや?…君は監督生じゃないか!」
「…今年なったばかり、ですが」

「我が誇り高きグリフィンドールの監督生に、君のような優秀な子が就いてくれて嬉しいよ」

それから「後はわたしに任せて。君も…パトローナスを使って疲れただろう?」と中へ入れられ、私を未だに震えるロンと白い息をはくハーマイオニーの隣りに座らせた。

私はぼんやりと、虚空を見つめて『監督生なのに特急内での約束を破っちゃったなぁ…罰則ってあるのかなぁ…』と考えていた。早く、温かい女子寮のベッドで眠りたい。

20130815
title by MH+
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