万物流転 | ナノ
21.よきせぬ
「みんな、並べよ!
 ハリーポッターがサイン入り写真を配るそうだ!」

昼食を済ませ、双子と中庭付近を歩いていた時のことだ。どこかで聞いたことのある声だと思えば、ノクターンの店とダイアゴン横丁の書店でいろいろと世話になったあのちびっ子マルフォイの声だった。

わらわらとハリー達を囲むように、中庭では人だかりが出来ていて双子も興味をくすぐられたらしく新しく完成した悪戯グッツを片手に彼らの方へと近寄って行く。溜息が出そうになるが私もその後に続いた。

「マルフォイ黙れ!」

ハリーは拳を握りしめてマルフォイに怒鳴った。そしてハリーの側に立っている薄茶色の髪の毛でカメラを持った男の子が「君、やきもち妬いてるんだ」と言えば、マルフォイは「この僕が妬いてる?」とぎらついた目でその少年を睨み付ける。

「僕はありがたいことに、額の真ん中に醜い傷なんか必要ないね。頭をかち割られることで特別な人間になるなんて…」

「ナメクジでも食らえ、マルフォイ!」
「…言葉に気をつけるんだね、ウィーズリー」

マルフォイはせせら笑い、彼の取り巻き達が、今にも彼へ噛み付かんばかりのロンを拳骨をさすって脅す。加えて「これ以上いざこざを起こせば、君のママがお迎えに来て学校から連れて帰ってくれるよ」と言い、ロンは顔を真っ赤にする。

「ただし、君の場合はどうだい?ポッター」
「何が言いたい!」

「君はそんなママですらいないんだから…」

ハリー、ロン、ハーマイオニーの顔色が一変した。辺りで傍観しているスリザリン生以外の生徒達もマルフォイがハリーに放った言葉を言い過ぎだと評価したのだろう。確実に周りの気温が一度下がった。それに気付かないマルフォイは甲高い突き刺すような声色で「今度ちょっとでも規則を破ってごらん…」と夫人の真似をした。

「声真似の随分お上手なこと――
 それもあなたのお父上から教わったのかしら?」

近くにいたスリザリンの五年生らの下賤な笑い声に、我慢ならなかった私は、絶対零度の笑みを浮かべて輪の中から一歩二歩と出て行く。

「お前は…!あの時の!」

「ご機嫌麗しゅう…ドラコ・マルフォイくん。
 どうやらあなた達、懲りずにまた水浴びをしたいようね?」

怯える表情を一瞬見せるも、自分が引きつけた観衆の目の前であることを思い出したちびフォイは、そのスリザリン寮には不釣り合いなほど勇ましく、私を睨み付けたのであった。

20130812
title by MH+
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