万物流転 | ナノ
6.はてまで5
彼女の足取りは覚束無く、なんかもう色々だめな気がしたけれど「怒るなよ」って言って僕は彼女をいわゆるお姫さま抱っこをして裏路地に停車してあるフォード・アングリアの後部座席まで連れて行った。

ロンの姿を確認するや否や、恥ずかしさに堪えかね僕の腕の中でじたばたともがくレイリ。でも、そんな彼女の悪足掻きも所詮は女の子の力で、僕には痛くも痒くもなかった。

レイリを乗せ、次の目的地まで空を飛んでいるうちに彼女は眠ってしまったようで、バックミラーで確認するに…彼女の隣りに身を硬くして座るロンの肩に頭をしなだれかける形が完成されていた。それについてフレッドがロンをからかって、僕もそれを笑っていたけど、ちょっとだけ、いや、かなり弟のポジションが羨ましいなぁなんて思ったりもして…

だけど、ハリーの家に到着し、窓に鉄格子のついた部屋で生活しているのを見た時、そんな邪な考えはふっとんだ。フレッドと一緒に鉄格子をはずし、そーっと彼の部屋へと足を踏み入れた。ハリーは、僕達がヘアピンを使って階段下の物置のドアを開けるのを目を丸くして見ていたが「出来て損はないだろ?」とフレッドに言われて、ちょっと笑っていた。

家主の咳をする音を聞きながら、フレッドと二人でハリーの重たいトランクを運んだ。息を切らしながら、なんとかハリーの部屋まで辿り着くと、粗方部屋の荷物は詰め終えたみたいだ。「もうちょい…あと一押し!」先に車に乗り込んだ片割れが言う。フレッドとロン、ハリーの四人で力を合わせてトランクを押し込むと、やっと後部座席に収まった。

「オーケー、行こうぜ」と僕は言って、ハリーが窓枠に足をかけた時「あのいまいましいふくろうめが!」と男性の声が聞こえた。ハリーは慌てて部屋の隅に置去りになっていたペットの梟の籠をダッシュで取りに行きロンにパスをした。部屋の扉が開かれて「ペチュニア!やつが逃げるぞ!」と叫んだ男性はでっぷりとしていて、その身体の割には速い動作でハリーに飛びかかって足首を掴んだ。

僕達兄弟は、力一杯ハリーの身体を車へ引っ張り上げようとする。そうして、するりとそのおじさんの手からハリーの足首が抜けるのを確認し、ロンの「アクセルを踏め!」の号令に従って、ブゥウンと月に向かって急上昇した。

「そうだ!ヘドウィグを放してやろう」

後ろの席のハリーが言った。「後ろからついてこれるから。ずーっと、一度も羽をのばしてないんだよ」あのおじさんの言動を察すれば、ハリーの白いふくろうは、ずっと狭い籠の中に閉じ込められていたのだろう。かわいそうに。

「そりゃいい! ジョージ、ヘアピンを貸して!」
「はい、どうぞ」

ハリーの言葉に同意したロンが、僕に手を伸ばした。僕はヘアピンを渡しながら、白いふくろうの不幸を、自分たちに置き換えて考えていた。僕たちが、もしママに、自分たちの部屋で魔法も使わせてもらえずに部屋に缶詰にされたら。うん…きっとしんじゃうだろうな。

「…ねぇ、そこにいるのは誰?」
「誰ってそりゃ…先輩だよ、ほら…」
「あぁ、忘れてた!」
「おいジョージ!レイリが荷物につぶされちまう!」

運転していたフレッドはどこかの高い建物の屋上に車を止めて、僕が後部座席の荷物の海から彼女を救出した。その間、ヘドウィグが停車した僕らの頭上をぐるぐると旋回して『ホー』と鳴いた。

あれだけ騒がしくしていたと言うのに、彼女は一度も目覚めずに眠っている。それほど身体が辛いのか?強引に連れてくるべきじゃなかったんじゃないか?と一抹の不安が頭をよぎる。彼女の小さくて軽くて熱い身体を支えながら車に乗り込んだ。

20130811
20170103加筆
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