万物流転 | ナノ
34.つきかげ2
セドリックは僕とロンをバスルームの奥へと案内すると、僕らは思わず「わぁ!」と声を上げていた。そこは、とても素晴らしい場所だった。まさか、あのボケのボリス――手袋の左右を間違えてつけているボーッとした感じの魔法使い――の像の左側、四つ目の扉がこんな浴室に繋がっているとは、誰も思わないだろう。

僕は、こんな浴室を使えるならそれだけで監督生になる価値がある、と思わず口が動いた。そんな僕の言葉に同意するように、コクンコクンと頷くロンを見て、セドリックはいつものはにかみで答えた。

「卵はちゃんと持ってきたかい?」
「うん。ロンの鞄の中に入ってるよ」
「…ほら、これ」

ロンは鞄から卵を取り出して腕に抱えた。それを見たセドリックはにこやかに答えて、次に「それじゃあ、濡れても大丈夫なように着替えも持ってきたね?」と聞いた。ロンの荷物は、ハーマイオニーに持たされた呪文の本でいっぱいになってしまったので、今度は僕が二人分の着替えを鞄から引っ張り出す。

「…よし。それじゃあ、今から着替えて?着替えたらすぐに始めよう」
「あの、でも…僕ら一体何をするんですか?」
「監督生の風呂場に行くってレイリに聞いてたから、着替えが必要なのは分かってたけど…どうして?」

疑問に思っていた僕がそう質問すると、続いてロンも同じようにセドリックへと疑問をぶつけた。セドリックは「それは彼女が説明してくれると思うよ」と含みのある笑みを浮かべて、それから叫んだ。

「おーい、マートル!出てきてくれ!」

「「え!!?マートルだって!?」」

セドリックが思いも寄らぬ人物、もといゴーストの名前を呼んだので、びっくりした僕らは思わず叫んでしまった。その声は浴室に反響して消えていった。

「あぁ、そう言えば、君等は前にマートルに会っていたんだっけ?」
「…えぇ、まぁ…その…」
「秘密の部屋の時には、ちょっとお世話になって…それ以来顔見知りなんです、僕たち」

ロンが気まずそうに視線を泳がして僕を見たので、彼の曖昧な返事を僕が補った。すると「呼んだかしら、ディゴリー?」と、誰かの声がした。言わずもがな、その声の主はマートルで、声のした方へ視線を向けると、憂鬱な顔にどこか期待を滲ませながらこちらを見ている女の子が、蛇口の上に胡座をかいて座っていた。

「やあ。来てくれてありがとう」とセドリックは驚くこともなく、至ってにこやかな対応を続けている。僕とロンは、その異色な光景をただただ見詰めていることしか出来ない。

「…あら、ハリーじゃないのぉ!また会えて、嬉しいわ!」
「や、やあ。マートルも…元気そうだね」
「ウヘー!」

ぎこちなく返事をすると、隣りに立っているロンが耳元へ口を寄せてきて、僕に聞こえるように声を潜めて「マートルはまだ君にご執心みたいだぜ、ハリー」と言ったので「…そうみたいだね」と枯れた笑いが零れた。

「それじゃあ、マートル。この後のことは任せてもいいかい?」
「えぇ、もちろんよ!…なんたって、レイリのお願いだし、ハリーのためだもの」

「え!セドリックは、僕らと一緒にいてくれないの?」と祈るような目を向けながら彼に言えば「大丈夫。僕はここにいるよ」と言ってくれた。あからさまに溜息を吐いたロンを肘で突きながら「でも、一応見張り役として扉の前で待機するってレイリと決めたんだ」と彼の口から聞いた時は、僕も溜息が出そうになった。

「あら、ハリーは指南役がわたしじゃ不服かしら?」
「そんなことはないさ!なあ、ハリー?」
「…あー、うん。お願いするよ、マートル」

マートルのヒステリーには、散々辟易させられたので、面倒なことになりたくないロンが取り繕うように言って僕と肩を組んだ。僕もそれに続いて渋々言った。それじゃあ、ちょっと僕らは着替えるからと、僕がマートルに「君はあっちを向いててもらえないかな?」と言えば、彼女は眼鏡をきっちり覆って反対側を向いた。それを確認して僕らはいそいそと着替えはじめる。

そんな僕らに近寄ってきて、小声で「いいかい?着替えたら、卵を持って浴槽に浸かるんだ。いいね?詳しいことはマートルが教えてくれる」と言ったセドリックは、浴槽を離れて扉の方へ歩いて行った。それから僕とロンは、マートルの指示に従ってさぶさぶと浴槽の中へ入った。

20131215
20131225
20150720 修正
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