万物流転 | ナノ
31.うたごえ7
魔法薬学の予習を終え、談話室にたまたまあった『魔法界の言語百選〜野生魔法生物語から滅びた言葉まで〜』という分厚い本を読んでいると、例の三人組が重たそうな鞄を肩にぶら下げて談話室に帰って来た。

こころなしかやつれて見える三人は、私に気付いたハーマイオニーを筆頭に近寄ってきて、正面のソファーに倒れるようにして座った。

「ずいぶんお疲れのようね」
「そうなんです…。ハリーたちが、まだ、卵の謎が解けていなくって…」

じっと心配そうな目付きで、ハーマイオニーが隣りのハリーとロンを見遣った。私が彼らを見ると、ギクリとした二人は苦笑いをした。「もう僕らにはムリだよ!」赤毛を掻き見出して言うロンに「ちょっとロン!それをハリーの助手であるあなたが言うの?」とハーマイオニーの非難が飛んだ。

「だって、仕方ないじゃないか!なぁ、そうだろ?ハリー?」
「…僕、もう疲れちゃったよ。それにあの泣き声には耐えられない!」

いやいやと頭を振るハリーに、うんうんと頷くロン。大きな溜息を吐くハーマイオニーが、ちらりと私を見て「あの…レイリ先輩たちのペアは…もう」おずおずと言ったので、それに答えて「問題は粗方片付いたわ。もちろん、卵の謎もね」と言えば、ハリーもロンも期待に満ちた目で私を見詰めた。

「だけど、ロンくん? あなたも知っている通り、私の口からはあなたたちが有利になるような情報を与えられないのよ。残念な事にね。…魔法契約でそう決まっているから」

「…そうですよねぇ」とハリーが項垂れた。「あぁもう!僕たちどうすればいいんだ!?」と頭を抱えたロンに「それを今の今まで図書館で考えていたんじゃない!」とハーマイオニーが叱咤した。けれどもロンが「君の大好きな図書館の本に、咽び泣く卵への対処法が載ってるものはあったかい?」と言われると「そ、それは…」と彼女の怒りも萎縮してしまった。

「ひとつだけ」
「え?」

私はローブのポケットから二つに畳まれた紙切れを取り出して、わざとらしくテーブルの上へと放った。それを、不思議そうな目をして見詰める三人。私は口元に笑みを湛え、ハリーの目をじっと見詰めてさらに言葉を紡いだ。

「ひとつだけ抜け道があるのよ」

そう言いつつにやりと不敵な笑みを浮かべる私に、怪訝な表情をしたハリーが「それは、どういうことですか?」と問うてきた。しかし、私はその問いには答えず、立続けに言葉を並べた。ハリーは不満そうな視線を投げて寄越す。

「…あら、もうこんな時間だわ!それじゃあ先に失礼させて頂きますわね。私、忘れ物はしてないわよね?」
「先輩?…これは、レイリ先輩のじゃ…」

「あら、ハーマイオニー!教えてくれてありがとう。 けれどそれは、セドリックがハリーに渡してくれと頼んだものだから、私には必要のないものね――中には何が書いてあるのかしら?」

ハーマイオニーがハッとして他の二人を見た。しかし、肝心の二人は私の言葉に、さらに疑問符を浮かべるばかりで、私の真意には気付いていない様子だ。

分厚い本と足元の鞄を持ち上げて私は席を立ち女子寮へと向かう。「…あぁ、それと」ゆっくり振り向いた私は「これもセドリックからの伝言なんだけど、ハリーとロンの二人は、明日の夜時間を空けておいてね?」と告げて静かに階段を登った。

後ろから聞こえてくるハーマイオニーの言葉に、しめしめと笑う。どうやら作戦は成功した様だ。私はずっと同じ体勢で本を読んでいたために凝ってしまった肩を回しながら女子寮の廊下を進んで行ったのだった。

20131129
20160312修正
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