万物流転 | ナノ
43.はじまり3
ハーマイオニーの話によると呪文学では、ハリー達四年生は『呼び寄せ呪文』を習うのだと言う。朝食の席で、四年生にすっかり打ち解けた私は、イチゴジャムを乗せたヨーグルトを食べる傍らで、周りに座るネビルやハリー達にコツを伝授した。

「呼び寄せたい物を頭で思い浮かべるの。そして、針に糸を通す時のように、よーく集中することが成功への鍵ね」

「ぼ、僕には、成功できないよぉ…!」

「ちゃんと意識を集中させれば簡単なことよ。ネビルはまず、自分に自信を持つことね。『僕は出来る』って十回言ってごらん」

にこりとハーマイオニーの隣りに座るネビルに笑い掛けると、こくんと頷いた彼は「僕は出来る、僕は出来る…」と言い始めた。

そんな言葉を言っただけで何が変わるんだ?という顔をしたロンは、ソーセージを口に突っ込みながら、ぶつぶつ言う彼の姿を見ていた。ハリーもネビルの様子を伺っているようだ。

8、9、10――
言い終わったネビルは、いつになく真剣な目付きをしている。

「ほらネビル。杖を構えて? 振り方はさっき教えた通りよ」

私がニッと口元に笑みを浮かべ、右手の人差し指を伸ばして、滑らかに手首を回転させる。それを見てから、素直なネビルはローブのポケットから取り出した杖をじっと見つめた。

「双子の前のオレンジジュースを呼び寄せてくれる?」
「ネビル、頑張って!」

隣りに座るハーマイオニーが興味津々の様子で、彼の応援をした。相変わらずのロンくんは、本日六本目のソーセージをフォークで突き刺し、口へ運ぶ。私が付け加えるように口を開き、彼の背中を押した。

「大丈夫。心配しないで? 今のあなたになら、こんな簡単な呪文お茶の子さいさいよ」

「…う、うん。『アクシオ!オレンジジュース!』…ぅわあ!」

ぎゅっと目を瞑ったネビルの目の前に、オレンジジュースの入ったガラスの容器が飛んで来た。ロンは、ぱかっと口を大きく開けてそれを見ていて、私は心の中だけで(ほらね)とほくそ笑む。

「自分を信じない者に、努力する価値はないのよ」

そう某熱血指導忍者の台詞をなぞると、ワッと周りにいた後輩達が沸いた。ハリーはそんな中で「僕は…出来る」と噛みしめるように一回呟く。

ネビルが目の前で呼び寄せ呪文を成功させるまでは、小馬鹿にして見ていたロンくんであるが、彼もまた、こっそりとブツブツ唱えているのであった。

20130905
title by MH+
[top]