万物流転 | ナノ
29.いたずら3
「ねぇ、僕…君になら抱かれても良いよ」
「はぁ?何を馬鹿なこと…ってえ?」

セドリックが妙にうっとりとした顔で馬鹿げたことを言ってきたので、反論をしようとするといつもより声が低かった。低かったと言うより、その…自分の声が、男の子の声だった。よくよく考えてみると、いつもより視界が広く高くなってるし、目の前のセドリックと目線が同じくらいだった。

ぺたぺたと身体を触ると、胸は平らで股間には何やら違和感を感じる。ひやりとした汗がたくましくなった背中をツーッと伝い、喉を触ると、喉仏が発達していた。沸々と怒りが込み上げてきて「フレッド、ジョージこの野郎!」と叫べば、その哮る声はまさしく男の子だった。

「貴様ら、我輩の部屋の前で何をやって、おる…の、だ」
「スネイプ教授!」

バタンと扉を開けて中から黒いローブを翻しながら登場したのは、セブルス・スネイプ教授で、セドリックとグリフィンドールのローブに身を包み、女子制服のスカートを穿いた男子生徒――私を目にして、徐々に眉間のしわが深くなって行った。

「何を…しておるのだ。ディゴリーは早く行きたまえ。それから、貴様はどうして、そんな格好をしておるのだ!」

「あの先生、これには訳がありまして!」

セドリックが焦りながらスネイプ教授に説明をすると、ようやく変態男子生徒が私であることを認識して頂けた。口の端をヒクヒクさせながら瓶詰めされた紫色のゼリービーンズを手にする教授に「男子生徒の制服の上下ありませんか?」とおずおず質問すると「待っていろ」と部屋の中へ戻られたかと思えば、廊下の奥から管理人のフィルチ氏がもの凄い勢いで走ってきた。

教授がフィルチ氏から男子の制服の上下を受け取ると、それを私に手渡した。「我輩の部屋で着替えろ。今着ている女子の制服は袋を用意してやったからそれの中へ入れると良い」スネイプ教授はそう言って下さり、理解した私はサッと部屋へ入って女子の制服を脱ぎ去り、ズボンを穿き、カッターのボタンを閉じ、黒い袋の中へ着ていたものをたたんで詰め込み、部屋を出た。

「ありがとうございました。スネイプ教授、フィルチさん」
「貴様らは急いで玄関ホールへ行け。仕事があるのだろう」
「はい、ですが…」

「この件については、我輩からマクゴナガル教授へ伝えておこう」
「あ、ありがとうございます!失礼します」

「レイリ、走るよ!」とセドリックが言い、私の腕を掴んだ。ぐいっと引っ張られて前のめりになり体勢を崩すも、私はすぐにバランスを取って、彼の隣りに追い付いた。男の子の身体ってすごい。一歩が大きい!足長い!

そんなことに感動をしているうちに、生徒達の集まる玄関ホールへと到着した。私は、さすがにこの男の子の格好で、この長さの髪の毛を括らないのは見た目的にNGだろうと思って、ビルやイタチを倣って、首のすぐ上の低い位置に髪を結んだ。

私が整列を始める生徒達の前へ出ると、バババッとこちらへ視線が集まって、次第に付近の女子生徒が騒がしくなった。そうなるのも無理はないだろう。なんせ、今の私はあの美形イタチと瓜二つなのだから。

実は、教授の部屋で着替えている時に、薬棚のガラスに移り込んだ自分を見て、私はそこにイタチが立っているかと思ったくらいなのだ。いやはや…この世界でも、イタチの美形さは共通なんだなぁ、と今はなき彼の姿を脳裏で思い描いた。

20130901
title by MH+
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