2.へいおん
結果的に、正規のルートは滞りなく正しい道に進んでいったとここに明記しておこう。ハリー、ロン、ハーマイオニーの主要なメンバーは、狂いなくグリフィンドールへ組分けされていった。
ただひとつだけ、うっかりしていたことがあるとするならば、あの日私がコンパートメントに招き入れた人物こそが、後の物語でキーパーソンとなるネビル・ロングボトムくんだったと言うことである。
以下は、そんな「まぁ、同じ寮の先輩・後輩としては仲良くしていこうか…」だなんて考えていた矢先のことである。
***
昨日、前夜祭だとか、そんな馬鹿げたことを抜かす双子をこの手で叩いたことを私は覚えている。そんな彼らにそそのかされたフリフィンドール生が、皆浮き足立たせてがやがやしている談話室で、知らず知らずのうちに私もその雰囲気に呑まれてしまったらしい。
そして、その次の日である今日が、原作に関わるどんな大切なイベントの日であるかを私は忘れていたのだ。私は毎日、夕食の前には必ず図書館へ行っていて、同室のアンジェリーナからは「まるでブックワームね」と言われたことに少々傷付いたりもしながら、用を足す為にトイレへ寄った。
もう皆、大広間で食事をしている時間だろうか。静かなトイレには私しかおらず、個室に入っていると後から入ってきた子が乱暴に扉を閉める音が響いて、誰かのすすり泣く声が聞こえてきた。気まずくなって水を流せば、ちょっと小さくなったその泣き声。
手を洗って、ハンカチで手を拭いた。ひとつだけ閉じている扉をノックする。その時、かすかな悪臭が鼻を突いた。それはきっと、例の先生が校内へ入れたトロールの臭いで、危機感が増す。
「大丈夫?」
「――レイリ先輩、ですか?」
「そうよ。その声は…グレンジャーね。
あなたは泣いているようだけど、何かあったの?」
「今は、だれにも…会いたく、ないんです。 ほうっておいて下さい…」
涙声でそう言った彼女には悪いと思ったが、悪臭がすぐそばまで迫ってきているのを感じている私は閉じられた個室の扉を解錠呪文で開いた。びっくりした表情の彼女が私を見詰めている。
「そんな寂しそうな声で言われても、説得力がないよ?」
あぁ、もう。仕方ないよね。半ば投げやりになりながら、そんな感情はおくびにも出さずに便器の蓋の上に身を小さくして座る彼女を抱きしめた。
トントンと優しく彼女の背中をまるで赤子を抱く母親のようになって数回さすれば、わんわんと泣き出した。昼間にロンから『悪夢みたいなヤツ』と罵られたことや不器用な彼女の思いやりについてを涙ながらに語ってくれた。適度に相槌をうちながら、私はこの状態からどう二人で抜け出そうか考えていた。臭いはもう、すぐそこまで迫っていた。
「グレンジャー、一先ず泣きやんでくれる?」
「はい…ぐずっ…」
「女子寮についたら、いくらでも私が話を聞いてあげるから…」
「…ありがとうございます――っ先輩、後ろ!」
20130810
20131208修正
20160401誤字修正
title by MH+
*あと一話続きます
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結果的に、正規のルートは滞りなく正しい道に進んでいったとここに明記しておこう。ハリー、ロン、ハーマイオニーの主要なメンバーは、狂いなくグリフィンドールへ組分けされていった。
ただひとつだけ、うっかりしていたことがあるとするならば、あの日私がコンパートメントに招き入れた人物こそが、後の物語でキーパーソンとなるネビル・ロングボトムくんだったと言うことである。
以下は、そんな「まぁ、同じ寮の先輩・後輩としては仲良くしていこうか…」だなんて考えていた矢先のことである。
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昨日、前夜祭だとか、そんな馬鹿げたことを抜かす双子をこの手で叩いたことを私は覚えている。そんな彼らにそそのかされたフリフィンドール生が、皆浮き足立たせてがやがやしている談話室で、知らず知らずのうちに私もその雰囲気に呑まれてしまったらしい。
そして、その次の日である今日が、原作に関わるどんな大切なイベントの日であるかを私は忘れていたのだ。私は毎日、夕食の前には必ず図書館へ行っていて、同室のアンジェリーナからは「まるでブックワームね」と言われたことに少々傷付いたりもしながら、用を足す為にトイレへ寄った。
もう皆、大広間で食事をしている時間だろうか。静かなトイレには私しかおらず、個室に入っていると後から入ってきた子が乱暴に扉を閉める音が響いて、誰かのすすり泣く声が聞こえてきた。気まずくなって水を流せば、ちょっと小さくなったその泣き声。
手を洗って、ハンカチで手を拭いた。ひとつだけ閉じている扉をノックする。その時、かすかな悪臭が鼻を突いた。それはきっと、例の先生が校内へ入れたトロールの臭いで、危機感が増す。
「大丈夫?」
「――レイリ先輩、ですか?」
「そうよ。その声は…グレンジャーね。
あなたは泣いているようだけど、何かあったの?」
「今は、だれにも…会いたく、ないんです。 ほうっておいて下さい…」
涙声でそう言った彼女には悪いと思ったが、悪臭がすぐそばまで迫ってきているのを感じている私は閉じられた個室の扉を解錠呪文で開いた。びっくりした表情の彼女が私を見詰めている。
「そんな寂しそうな声で言われても、説得力がないよ?」
あぁ、もう。仕方ないよね。半ば投げやりになりながら、そんな感情はおくびにも出さずに便器の蓋の上に身を小さくして座る彼女を抱きしめた。
トントンと優しく彼女の背中をまるで赤子を抱く母親のようになって数回さすれば、わんわんと泣き出した。昼間にロンから『悪夢みたいなヤツ』と罵られたことや不器用な彼女の思いやりについてを涙ながらに語ってくれた。適度に相槌をうちながら、私はこの状態からどう二人で抜け出そうか考えていた。臭いはもう、すぐそこまで迫っていた。
「グレンジャー、一先ず泣きやんでくれる?」
「はい…ぐずっ…」
「女子寮についたら、いくらでも私が話を聞いてあげるから…」
「…ありがとうございます――っ先輩、後ろ!」
20130810
20131208修正
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