万物流転 | ナノ
15.まぶしさ5
アーサーが「さて、差し支えなければ、わたしは皆を連れてテントに戻るとしよう」と言い、ロンとハーマイオニーに手を貸して立ち上がらせると「エイモス。その杖をハリーに返してもらえまいか?」と穏やかな声で問う。

ディゴリー氏が、ハリーに歩み寄って杖を渡して、彼がポケットにしっかりと杖を仕舞うのを見届けてから「さあ、四人ともおいで」と静かに言った。アーサーさんが言った『四人』という言葉に、私が含まれていることを理解してから「しかし、」と言い返そうとすると「君も来るんだよ」と念を押された。

彼の強い眼差しに、私はしぶしぶ頷いた。立ち尽くすクラウチ氏の傍から一歩下がった場所で、もう一度フードを深く被り直す。ハーマイオニーがその場を動きたくない様子でウィンキーを見つめていたが、歩き出したハリーとロン。そして、アーサーさんが「ハーマイオニー!」と、少しだけ急かすように名前を呼んだのでやっと彼女もこの場を離れる決心がついたらしい。

一列で歩き、アーサー、ロン、ハリー、ハーマイオニー。そして殿に私が控えた。パキパキと枯葉や小枝を踏みならして進んでいると、中の三人組がアーサーさんに向かって色々と問い始めた。ハーマイオニーはウィンキーについて、ハリーとロンは闇の印について。

けれど、アーサーさんが「それより、ほかのみんなはどうしたんだ?バラバラになるんじゃないぞとわたしは言ったはずだが?」と威圧的な声色でロンに尋ねたので「ごめんなさい。暗がりで見失っちゃったんだ」と口籠ると、他の二人も反省したのか静かになった。

森を抜けると、バサッと大きな羽を羽搏かせた大鴉が私の肩にとまった。すると、少しだけ落ち着きを取り戻した魔法使いや魔女たちが一斉に私たちの方へ振り返った。

「アーサー!あっちで何があったんだ?」
「だれがあれを創り出したのか、わかったのか?」
「ありがとう、この鴉のお陰でどんなに心強かったことか!」
「見たところ、まだ小さいのにすばらしい守護霊ね!」
「例のあの人じゃないだろうね!どうなんだ、アーサー!」
「もうテントへは戻っていいんだろうか?」
「テントの火も君が消してくれたのだろう?」

私たちを囲い好き勝手に話し出したので、アーサーさんと私は目が回る思いだった。人の群れに弾かれた三人組はポカーンとその様子を離れたところで見守っていた。

「聞いてくれ!――今回の事件は『あの人』の仕業ではない。そして、はっきりした犯人はわからない。私たちが現場へ到着した時には、犯人は『姿くらまし』をして去ったあとだった!」

「私からも一言よろしいですか?アーサーさん」
「…あぁ、いいとも。もちろんだ」

小声でアーサーさんにそう言えば、疲れた顔をした彼からOKを貰った。私は輪の中から一歩外へ出て、ソノーラスを唱えて杖を喉に押し付ける。肩にとまった大鴉が、上空へ舞い上がりそして弾けて、銀色の流れ星のような光を辺り一帯に振りまくと、群衆はこちらに注目して皆口を閉じた。

「私のパトローナスの指示に従い、皆さんが冷静な判断をし、お互いに助け合って避難して下さったお陰で、現場の状況把握が可能になり、今回の事件を引き起こした犯人への手掛かりを、魔法省は手に掴むことができました。また、負傷者も最低限に押さえることができ、皆様のご協力に厚く御礼申し上げます!」

最後に「ご清聴、ありがとうございました」と言って頭を下げると、明るさを取り戻した人々が大きな拍手を送ってくれた。これで丸く治まってくれるといいんだけど。そう思いながら、アーサーさんや三人組の方へ戻ると、あっけにとられた様子で彼らは突っ立っていた。

「すみません、遅くなりました」
「…いや、いやいや!君の言葉のお陰で、人々が安心したようだ!」

三人組のうちで一番早く復帰したハーマイオニーが「あの!貴女は…」と私の確信に迫るようなことを尋ねる前に、アーサーさんが「早く行ってベッドで休もう。今日はもう疲れたよ」と彼女の言葉を遮ったので、ハーマイオニーはそれ以上私に何かを尋ねることは出来なかった。

20130826
title by MH+
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