万物流転 | ナノ
14.まぶしさ4
「だれがやった?」刺すような目をハリー達に向けながら、厳しい口調で言うクラウチ氏に「僕たちがやったんじゃない!」「なんにもしてないよ!」とハリーとロンは噛み付くように言った。震えた声で「ほんとうだよ!」とロンは父親に言う。

「白々しいことを!」

「バーテミウス。闇の印を打ち上げたのは、この者たちではありません」

私がそう告げると、彼の傍らに立っていた長いウールのガウンを着た魔女が「そうよ、バーティ。みんな子供じゃないの。あんなことが出来るはずは…」と囁くように言う。しかし、私の声を聞いてやっと私の存在を認識したクラウチは「貴様は何者だ!」と私を杖で差しながら怒鳴った。

「私は――闇祓いです!」

魔法省の役人達はざわめいたが、さらに私は言葉を続ける。「しかし、任務中の諸事情につき今は名乗れません。私のことが疑わしいのなら、闇祓い局局長かアラスター・ムーディを呼んで下さい。彼なら、私が闇祓いであることをしかと証明してくれるでしょう」私がムーディの名前を出した途端に、彼らの顔色が変わった。どうやら、ムーディと言う名前は、彼らの信用に足るものであったらしい。

「おまえたち、あの印はどこから出てきたんだね?」
「あそこ――木立の陰にだれかがいたの!何か叫んでたわ…呪文を」

「『Morsmordre』…その何者かが唱えた呪文は、これでしょう。死喰い人が闇の印を打ち上げる時は、これを使う」

「貴様!やはり、闇の手先か!」

「だから、私は…!」
「黙れ。第一に貴様はフードを深く被って、私たちに顔を見せないではないか!」

「それは、先ほど説明をした通りに、現在私は極秘任務中で素性を明かせないと申し上げたばかりではないですか!」

「黙れ黙れ!私は、そんな言葉信じない!さあ、その顔を見せろ!」

「バーティ!」先ほどのガウンを着た魔女が叫んだ。ザッザッと私に歩み寄り、クラウチ氏が私のフードに手をかけた。その時「クラウチ、その手を離してやれ…」エイモス氏の声が、暗闇に聳える木立の隙間から聞こえてきた。ザックザックという足音とともに、小さな屋敷しもべをその両腕に抱えながら登場する。

蒼白な顔に目だけをメラメラと燃やしたクラウチ氏は「そんな、まさか!こんな、はずは、ない」と途切れ途切れに言う。「まさか!わたしの屋敷しもべが、そんなことをするはずがない!第一『闇の印』を創り出すには杖が必要じゃないか!」状況をまだ理解できておらず、虚ろな目だけが、自分の足元に下ろされた屋敷しもべを見つめていた。

「しかし、わたしがそれを見つけた時、杖を手に持っていたのだ。――この杖を!」

「――あっ!それ、僕のだ!」

「なんと言った?」そう言ったエイモス・ディゴリーを筆頭に、空き地に集まった役人が一斉にハリーに目を向けた。「やはり犯人はおまえじゃないか!」「バーティは黙って!」魔女がクラウチ氏に言うと、アーサーが「いやしくも、このハリー・ポッターがあの印を創り出すことがありえると言うのか?」と怒りで語調を荒らげる。

「僕は、森に入ってからなくなっていることに気付いたんです」
「すると、やはりこのしもべがやったんだ!」

「ディゴリーさん!ウィンキーじゃないわ!だって、だって!私たちが聞いた声は、ずっと太い声だったわ!…ねぇ、そうでしょう?」

ハーマイオニーが悲鳴のように叫び、必死に説明をした。同意を求められたハリーとロンは「ああ、ウィンキーの声とはっきり違ってた」「うん、あれはヒトの声だった」と相次いで首を縦に振が、ディゴリー氏はそんなことはどうでも良いというように唸った。

「ハリーが落とした杖を、このしもべが親切心で拾ったと仮定しよう。そして、杖が最後にどんな術を使ったのか、簡単に調べる方法がある」

ディゴリー氏は、杖を掲げて自分の杖とハリーの杖の先を突き合わせて『プライオア・インカンタート!』と唱えた。杖の合わせ目から黄緑色の光を発しながら、蛇を舌のようにくねらせた巨大な髑髏が空いっぱいに飛び出したのであった。その場にいた誰もが息を呑んだ音が、私にはしっかり聞こえた。

「デリトリウス、消えよ」私が静かな声で唱えると、上空に浮かんだ髑髏マークはすっかり消え去った。ディゴリー氏が、まるで実行犯だとでも言うような目で、クラウチ氏の足元の屋敷しもべ妖精を見つめたが「エイモス」と言うクラウチ氏の低い声にディゴリー氏はゴクリと唾を飲み込んで、姿勢を正した。

「通常ならば、君はウィンキーを役所に連行して尋問したいだろう。しかしながら、この件は私に処理を任せてほしい」

彼は、この提案を気に入らない様子で聞いていたが、クラウチ氏が魔法省の実力者なので断る訳にはいかなかった。「心配ご無用。必ず罰する」とクラウチ氏は冷たく言葉を付け加えたのであった。

20130826
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