万物流転 | ナノ
4.ともだち
セドリックは、土曜日の午後に迎えに来てくれた。私とセドリックがいつも待ち合せをするのはパブ『漏れ鍋』である。

クィディッチの試合観戦は月曜日なので、私は彼の家に二泊することになっている。お母様の体調が優れないのに、私などが泊まってもいいのか?と聞いてみると「僕が家に女の子を連れてくるって知ったら、母さん張り切っちゃって…今頃、腕によりをかけて夕飯の支度をしてるよ」と疲れたような声が聞こえてきた。

さり気なく「ほら、貸して?」と私のお泊まりバック(アンジェリーナとアリシアからプレゼントされたりなどで貰った洋服下着コスメ諸々が入っている)は、今セドリックが持っている。こう言うところが、女子からモテるんだろうなぁとしみじみ思って、改めてセドリックの性格のイケメンさについて考えた。

そして、今日もやはりダイアゴン横丁のフローリアン・フォーテスキュー・アイスクリームパーラーの店の前で足を止めたセドリックは、そわそわと落ち着かない雰囲気で私の方をちらちらと見てきた。「食べたいんでしょ?今日は何にする?」と言えば、彼は花が咲いたように笑った。

と言うよりさ、青年の笑顔に対して『花が咲いたように』って言う比喩はいかがなものなの?そう思ったけれども、セドリックの背後にはキラキラとした黄色とオレンジの花弁が舞っている(ように私には見える)ので、仕方ないか。彼は、まるで、花が咲いたように笑ったのだ。





アイスクリームもすっかり食べ終えてしまった頃、私はセドリックのご両親へ贔屓にしているお菓子屋さんでお土産のロールケーキを購入した。

ここでもセドリックは、チョコレートとキャラメルのクッキーを食べたそうにしていて、まるで小さい子供のように目を輝かせてショーウィンドーに張り付いていたので、荷物を持ってくれたお礼にチョコとキャラメルのクッキーの小袋をひとつ追加で購入することに決めた。

若い魔女の店員さんからは「お連れの方、お菓子が好きなんですね。いいですねぇ〜」とセドリックの顔面偏差値の高さにうっとりしながら、支払いの時に呟かれたが「あぁ、はい。まぁ…ですね」と私は曖昧な返事しか出来ないでいた。

その時、ちらりと横目で見た彼は、他の店員さんに試食をすすめられていた。あんなに緩みきった顔は、ホグワーツでは絶対に晒さないだろうな、と私は密かに思っていた。

店を出て、私達は暖炉のある店に立ち寄り、そこから彼の家に向かうらしい。煙突飛行粉と言えば、二年前のあの失敗を思い出し私は身構えた。

今回も同じようなミスを犯せば、セドリックやひいては彼の両親に迷惑をかけることになる。失敗は許されない。ぎゅっと手を握って、暖炉を睨み付けている私に気付いたセドリックは、優しく私の手を取って暖炉へ案内した。

「レイリはこれ使うのはじめて?」
「…あ、ううん。はじめてじゃない、けど」

「じゃあ、一緒に行こうか」
「えっ!」

セドリックは、暖炉の近くの入れ物から粉を暖炉の中へ投げ入れた。すると、炎は綺麗な緑色に輝き、にっこりと笑った。先に彼が暖炉の炎の中へと入り、繋いでいた手をぐいっと引っ張って私も中へ入らせた。そして、もうひと摘み、キラキラ光る粉を掴むと私の肩に片腕を回して、彼の胸に私の顔をぐっと押し付けた。

バシバシと私が開いている手で彼を叩けば「苦しいかもしれないけど、これがふたりで行く時の一番安全なやり方なんだ」と苦笑して言った彼は「我慢してね」と囁いてから『ディゴリー家!』と唱えた。途端に私達の身体は急旋回を始めて、煙突にヒュッと吸い込まれて行った。

私、煙突飛行、好きじゃないんですけどーー!

20130824
20131101修正
title by MH+
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