記憶喪失



誰かが、ぎゅっと手のひらを握るぬくもりで、俺は目を開いた。

「総司!?」

誰かの名前らしきものが呼ばれて。俺がそちらを見ると、綺麗な女性が目からはらはらと涙を流している。綺麗な灰色の目。色素の薄い髪――。見覚えがある気がするのにそれが誰なのかはわからない。

「ママよ!わかる!?」
「…」

ママって…この人、俺のお母さん、なのか?…にしてもママって…。どう考えても20代くらいにしか見えないんだけど…。にしても、ママ…。

「…だ、れ」
「え?」
「…誰?」

俺は誰?あなたも誰?そしてここはどこ?





俺の名前は、蜂須総司(はちす総司)。男。15歳(中三)。どっかの国とのクォーターで、母親はハリウッド映画にも出演する世界を股に掛ける女優。父親はとんでもない財閥の会長。

…らしい。

けどここは豪邸じゃない。

真っ白な、それらしい病室で、俺の腕には点滴がうたれている。

「記憶喪失、ってやつですかね」
「…は、ぁ」
医者の適当な言葉に俺はぼんやり相槌をうった。

「君は複数人に暴行されて、その時頭をうったようでね…精神的ショックもあったのかもしれないが…」
「…」
精神的ショックを与えられるくらい殴られたのか…。
記憶があったころの俺って、そういう危ないのに首をつっこむ性格だったのかもしれない。

だって俺、見るからに不良っぽい。
ピアスの穴はほとんどふさがっちゃってるけど(意識不明が1カ月も続いたから)何個も空いてるし、顔とか見てると…なんか遊んでそう。いろけ?みたいなのがある。自分で言うのも何なんだけど…。

身長184センチ、銀髪(遺伝らしい)、灰色の目。なんか漫画のキャラみたいだ。
そして整いまくってる顔のせいでどうにも…中学生には見えない。
身長は高いけど、線は細くて華奢だ。入院して多少おちたみたいだけど、筋肉も綺麗についてる。

絶世の美少年…らしい、そして理想の攻め?らしい(看護婦さんが言うには)


「卒業式に出席できなかったのは残念だったわね」
忙しい合間をぬって来てくれた母親の言葉に、はっとした。

「こう、こう…」

俺受験はどうなったんだ?

「ああ、高校は実を言うと、全寮制の男子校に決まっているんだけど…大丈夫かしら?…総司、以前と性格は真逆だし…」
「…え」

全寮制…男子高。むさそう…。

高校が決まってるのはいいけど、どうして母親は俺がリンチされたことに関して詳しく話してくれないんだろ…。

「わか、った。…あの」
「よかった!じゃあ、退院までに荷造りしておくわね!」
「え…あの」
「もうこんな時間!撮影があるから行くわ、ごめんなさい」

「…う、ん?」

よくわかんないけど、俺はうなずいた。


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