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「……の……が、なっ……」
「し……で……」

「ん…?」

 ごにょごにょと人の話す声がして目が覚める。寝床を探ると、寝台の上にヴァンはいない。どうやら、話をしている片方はヴァンのようだ。人と話しているなら中断させるわけにもいかず、狸寝入りを決め込むことにする。

「あいつは今度こそ封印だ。文句はねぇだろ」
「…私は、ない。けど、種族…反発します。ま、まちがいなく。ガーネット、なんとかしてください、ね」
「なんで俺だよ。んで?あいつに唆された人間どもはどうする?死刑にすんだろうなぁ?」

 死刑――その言葉に心臓がぎゅうと縮む。オタクは、一応友人だ。あいつが魔王に牙をむいたのだから、殺されても仕方がない。更に人間界を危機にさらしたのだから、死刑は当然だろう。

(ヴァンが、決定するならしかたねぇ…けど)

 あいつにも、悲しい過去がある。俺が乗り越えられたのは、魔王に対しての強い思いからだった。だがオタクは、魔族全体を憎んでいる。憎しみはなかなか乗り越えられない。それは当然のことだ。誰もが聖人じゃない。

「…あの人が彼を、き、気に入っています。死刑、したら…」
「あの野郎…くそだな。で?なんて言ってきたんだ?」

 どうやらヴァンは元魔王と話したようだ。続きが聞きたくてたまらないのに、ヴァンはなかなか口を開かない。

「おい、魔王様?」
「……彼を嫁によこせばもうこちらに介入しないと」
「は?」
「は!?」

 思わず叫んだ俺を二人が振り返るい。狸寝入りがバレてしまったがそれどころではない。

「お、オタクが嫁だぁ!?何言ってんだ!」
「なんだこいつ。お前が連れ込んだのか?」
「……つぐみくん、で、です。わたしの、番」
「番!?」

 ガーネットと呼ばれた男がぽかんとして俺を見る。愕然とした顔だが俺もそんな顔をしていることだろう。

「番、って。どういうことだよ、ヴァン!」
「…すみま、せん。つ、つぐみくん…わたしは、きゅ、吸血鬼族で」
「それは知ってる!」
「…吸血鬼族は、運命の相手の血がすげぇ美味く感じるらしい。それがお前だったってことだろ」

 たどたどしく説明するヴァンを遮り、ガーネットがうんざりしたように言った。吸血鬼族は神秘的な一族で、他の魔族にはない特徴があると言うが――知らなかった、番など。

「つ、つぐみくんがよければ!ですが…その、わ、わたしの」
「…」
「き、妃となっていただければ」
「妃ぃ!?お、俺が女役なのか!?」

 自分でもそこじゃないだろ!と思いつつ叫ぶ。ヴァンはきょろきょろと目を泳がせ、ガーネットを見つめる。助け舟が欲しいらしい。

「…別にお前が妃だからってつっこまれるわけじゃねぇぞ。その主導権はなんとか勝ち取ればいいんじゃねぇか」
「そういう問題か!?」
「うるせぇ!こいつの仕事へのモチベーションを維持するにはお前が妃になって傍にいるのが一番なんだよ!今回みたいに脱走されたら魔界も人間界も大荒れだ!わかんだろ!?」
「…ヴァ、ヴァンはそれでいいのかよ。運命の相手だとか、なんとか」

 ヴァンが俺の事を好きだとは限らない。血がうまいからと執着しているだけなら、結婚なんて…俺は、嫌だ。魔王にあこがれていたが、それは愛情とは別物だ。

 ただ、俺がヴァンに対し抱いていた気持ちは…愛情に似通っている、とは思う。

 ただ、ヴァンが俺を食料としてしか見ていないなら…。

「好き、です」
「…っ」
「わたしは、鶫君が……す、すき、です。…血とか、そういうのは、関係ない、です」

 真っ赤な顔でもそもそと呟くヴァンに、どうしたらいいか分からなくなる。ヴァンの事を恋愛対象として見たことは無かった。

「……時間、くれるか?」
「………どれくらい、でしょう、か」
「い、一か月くらい?」
「そんなに短くていいのかよお前。魔族の女は5年は待たせるぞ」
「寿命の違いを考えろよアンタ!」

 ガーネットという男は冗談だ、と笑い、ヴァンの背を叩いた。魔王に対しこんなにフランクに話すだなんて、この男は何者だろう。

「じゃ、あの人間はあいつのところへ送っておく」
「!そうだ、オタクを元魔王への生贄にするって!?ふざけんなよ!」
「じゃあどうする、死刑にするか?」

 言い返されぐっと反論を飲み込んだ。これが魔界側の、最大限の譲歩なのだろう。

「……大丈夫、です。い、いっしょう、会えない、わけじゃないです…」
「…本当か?」
「や、やくそく、します。だから、私との…ことも、か、考えて、ください、ね?」
「…ああ」


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