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(鶫視点)

 光が消え、目を開くとそこは豪華な寝室だった。まるで王族が住まうようなきらびやかな調度品に目がちかちかする。ヴァンは大きくてふかふかのベッドに横になり、「落ち着かない」と呟いた。

「…ヴァン、ここは」
「し、しんしつ、です。でも…ほとんど、使ってない、です」
「何、どこの寝室だって?」
「…魔王城ですが」

 魔王城――ということは、ここは魔界だ。俺がずっと、行きたかった場所。魔王に仕えるために。それなのに、ヴァンが魔王だった。

「…頭痛くなってきた」
「じゃ、じゃあ、寝ますか、とりあえず」
「いや、いい。とりあえず……教えてくれ。オタクは、前の魔王がどうとか…」
「それ、ですが……」

 ヴァンは窓の外を見てため息をついた。

「前の、魔王は。快楽主義者、でした。にんげんを、殺すのも。殺したかったから…それが大きい。殺したら、た、楽しいだろうと」
「っ…!なんだよ、それ」
「魔族が強い、ものに…従う。だから、みんな従いました。前の魔王、は。私に負けました…貴族も、解体、しました。だ、だから魔王ではなくなった、けれど。つ、強いのには、変わりない、です」
「つまり、魔界ではまだ前の魔王の力が強いってことなのか」
「は、はい。魔王は、命を落としました。だけど魔族は、死んでもすべてがなくなる、わけじゃない、です。残るん、です」
「残る…?」

 ヴァンの話を聞くと、とりわけ強い魔族は死んでも精神だけとなって世に残るらしい。それをヴァンは封印しようとしたが、ひっそり暮らすという約束で精神だけの元魔王を魔界の最果てに追いやったという。

 元魔王の一派は強いが、今は特に目立った騒ぎや事件を起こしていないという。他の貴族たちと同じように、魔界の辺境で暮らしている……はずだった。

「何故、あの人がまた人間にちょっかいを、だしたのか。…正直、わかりません。本人を捕まえないと」
「…戦うのか、元魔王と」
「いえ、多分…もうガーネットが捕縛しに行っているはず、です。一度死ぬと、弱体化、します。それでも、強いですが…ガーネットには負けます」

 たくさん喋って疲れたのか、ヴァンはベッドに寝転がると、自分の隣をぽんぽんと叩いた。

「…きて、ください」
「いや、いい。俺はオタクのことをもっと聞きたい。ガーネットとかいうやつの所にいかせてほしい」
「……駄目です」

 むっと唇を突き出し、拗ねたような顔をするヴァンは、俺に向かって手を伸ばした。すると、強引に体が引き寄せられ、気付くとベッドの上だった。

「っ…何も、魔法使わなくてもいいだろっ。つーか、身体がうごかねぇ!」
「寝てください。鶫君は疲れてるんです。わ、わたしも…つかれ、たんです。ひるまは、苦手れす…」
「!そういや、他の魔族関係の施設も攻撃してるって、レジスタンスのやつらが言ってたぞ。どうなってんだ!?」
「もう、とっ、とっくに鎮圧、済みです。連絡が、きました」

(いつ来たんだよ…そんな連絡取り合ってたか?伝達魔法か何かか…)

 目がとろとりし始めたヴァンは、俺を抱き寄せそのまま眠り始めた。今日はたった数時間で色々な事が起こり過ぎている。

(ヴァンが、魔王…)

 俺を救った、ずっと憧れていた――魔王。今更、態度を改められない。ヴァンは俺の中で手のかかる弟のようなものだった。細くて、病的で…手のかかる世間知らず。

「…守られたな、今日は」

 桁違いの魔力。頼もしい背中…ヴァンは何故、俺を助けたのだろう。オタクが人質に取ったのは俺だけだ。他の魔族がいうよう、無視して殺せばよかったのに。

(なんで、こんなもやもやしてんだ…)


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