02



人間界唯一の魔法軍事訓練校には、人間界全体から優秀な人材がこれでもかというほどに集められる。

現魔王の設立したこの学校は、12年前から平和の象徴ともいえる。

12年前ーー人間は魔界との戦争でずたずただった。徴兵された者は帰ってくることはない。それが前提で、戦争はずるずる続いていて。

食糧もろくに確保できない苦しい生活。街には魔獣が出現し、外出はおろか家で安心して眠ることもできない。

当時5歳だった俺は、そんな世界に生まれたことを恨み、魔王を恨んだ。


しかしそんな世界は、現在の魔王によって壊された。

現魔王は、先代魔王に代わり国政を担うことになるとすぐ、戦争をやめた。
もちろん、魔界にはそれに反対するものも大勢いたという。しかしそれらを捩じ伏せてまで、人間を保護することを決めたのだ。

そして人間側と条約を結び、互いの共存を目標とし、先駆けとしてこの学校が建てられた。

「鶫!はよーす」
「…あぁ」
「なになに、また魔王様の銅像のとこにいたのかよー」
「うるせえな」
「ホントに尊敬してんだねー」

篠原鶫(つぐみ)、17歳。
魔法軍事訓練校の11回生だ。現在は高等部の2年。

俺はずっとこの学校に入学したかった。だから努力して、受験し合格できた時は天にも昇る気持ちだった。

「天下の不良、篠原鶫様が魔王大好きっ子とかwwwワロスww」
「うるせえなこのオタク。今の魔王がどんだけ偉大かわかってんのかよ」
「んーでも魔族には変わりないじゃん、そこはいいの?」
「今の魔王は先代とは違う。それだけでいい」
「うへぁ凄いね。そういや魔王側近が目標だっけ」

現魔王の銅像は、後ろ姿しかない。前を見ることはできないように魔法がかけられている。長い髪にマントを羽織るその姿は、華奢に見えるが、あれだけの力があるならば、この銅像がちゃちなだけに違いない。

「鶫の魔王様への崇拝って以上じゃね?昔なんかあった?」
「…別に、一時間目に遅れるからもう行くぞ」
「おー、魔法体術専攻は大変ですな〜俺頭脳派なんで」
「いいからさっさと行けよ」

オタクの姿が見えなくなってから、俺はすっとため息をついた。

現魔王は偉大だが、それでも反魔王のやつらはいる。人間界にも魔界にも。魔界は圧倒的に現魔王派が多いと訊くが、人間界ではいまだ一割ほど、反対派がいる。

あの良心的な現魔王を倒そうとする輩に、俺がいいたいことはひとつだ。

「今の魔王が死んだら…人間界消えるな」

比喩ではなく。ぶっとばされるだろうな。

「っ、やべえ」
気付くと時間が本当に差し迫っていた。俺のクラスの講師は、魔界から派遣された吸血鬼一族の魔族で、時間に厳しい。いわく、授業が延長すると自分の睡眠時間が削られるのだそうだ。

移動魔法が学内では禁止されているので、仕方なく走っていこうとすると、視界の端にもぞもぞと地面を這うものをみつけた。

「…はぁ?」

長い髪がぼっさぼさにからまり、葉やらなんやらをつけた小汚い恰好で倒れている不審者。学内には専用のIDがなければ入れない。つまり、学校内の人間なのだろうが、どうにも様子がおかしい。

「…おい、大丈夫かよ」

近づいて、肩に手をおくが反応なし。仰向けにするが、長い髪が顔を覆っていてよく見えない。
「…」
浮浪者か?どこからか紛れ込んだのか?戸惑いながら、そいつを肩に背負って歩きだす。ああ、完全に遅刻じゃねえか。

「いっそセンセーになんとかしてもらうか」

目つきの悪い吸血鬼の教師を思い浮かべながら、教室まで行き、ドアをたたくと何故か教室内は騒がしかった。

「…あの、センセー」
「…」
「センセー」
「あぁ!?んだよ篠原、いま君の話をきいているばあいじゃねえんです…ぜ…?」

俯いていた顔をあげたセンセーはぽかんとした顔で俺を見た。一方俺は、教室の端、空中に映し出された魔界からの配信映像に目をくぎ付けにされていた。

『魔王様行方不明、現在捜索中』

「なっ…」
「篠原!な、ななななにしてんだおまえなにしてくれてんだ!」
「は…?」
「ちょっと来い!」

俺はよくわからないまま、センセーこと、ヴィテに準備室まで連行された。
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