甘党たち
「みかんちゃん?誰だそいつは」
会長、なんかすごく不機嫌そうだねえ。そんなに甘いの好きなんだ?
「ケーキ屋の人ォ。そのひとがケーキ全部つくってんの」
「一人でか?」
「うん」
みかんちゃん、暇なときはずーっとケーキ焼いてるか、新作考えてるし。一見大変そうなんだけど、すごく楽しそうに経営してる。
…恥ずかしがりでネガティブなとこさえ治せばなぁ。
「なんでお前そのケーキ屋のやつと知り合いなんだよ」
「親衛隊の子もみーんなみかんちゃん、って呼んでるよぉ。あ、会長のお眼鏡にかなうような容姿じゃないからね〜」
本当は超かなってるけどヒミツにしとこうと思う。
みかんちゃんは昔っからきれいすぎて、それなのに自覚がないから周囲からハラハラされていた。
華奢でいっつもびくびくしてて、人見知り。
この学園じゃとっても危ない。
「ふうん…親衛隊の集会でうまそうなケーキ食ってると思ったら、そこのか」
会長、何気に甘党だって言っちゃってる…。
「予約とか無いのかな?」
副会長がぽわんとしながら俺に視線を向けた。
「予約は多分ホールだけですよぉ、ピースのは基本、昼休みか放課後に買いにいかないと」
「そうなんだ…明日にでも行こうかな」
「……うーん」
副会長は綺麗好きだ。
その副会長が、前髪下ろして接客してるみかんちゃんを見て、いい感情を持つはずがない。ちょっと不安になってきちゃった…。
「(みかんちゃんに忠告しとこ…)」
(九条視点)
昨日から俺は、あのケーキの味を忘れられないでいた。
「九条さん、おはようございます!!!」
「「おはようございます!!」」
「…ぁあ」
多少機嫌の良かった俺は、下っ端連中に返事をしてやった。すると野太い声でぎゃあぎゃあと嬉しそうにしている。
何が愉しいんだ。
「…」
手元のピンク色のカードには、パティスリーIdeaと印刷されている。篤士からもらったケーキ無料パスだ。
昨日のホールケーキは飽きることもなく最後まで食べられた。
篤士が言うには種類がたくさんあるようだし、今日にでも買いに行くか。
そして昼休み。
「あれ…君、九条君ですよね?」
「…チッ」
ケーキ屋の前で鉢合わせしたのはキラキラ軍団(生徒会)の副会長だ。
今日も無駄にきらきらだ。
「もしかして、ここに御用なんですか?」
「…うるせえな、しめるぞ」
「ふふ、私もケーキを買いに来たんです」
そんな話をしていると、ショーケースの奥から、「みかんちゃん」がでてきた。
「あ、すみません、いらっしゃいませ…少し早いですが…どれになさいますか?」
今日は長髪を団子にしてまとめ、前髪もピンでとめている。少し恥ずかしげに頬をそめているところをみると、緊張しているらしい。
…ますます社会人には見えない。
「こんにちは、ここの従業員の方ですか?」
「は、はい。俺だけなんですけど…」
「そうですか、では、ケーキなんですが…」
副会長が注文する間、俺はずっといらいらしていた。
あともう2分ほどで昼休みだ。食堂に人がきだすと、俺が甘い物好きとばれてしまう。別にかまわないのだが、今まで隠していただけにめんどくせえ…。
「あの、九条君!ご注文は…」
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