02



「あー…九条〜、おいで」
「…」
 篤士に呼ばれた九条は眉間にしわを寄せながら立ち上がった。
「キミらちょっと待ってて、いや、食べててもいいけどさ」
「は、はいっ!」
「…何する気だ」
「いいから来なって」

 ケーキがなくて仏頂面の九条に、篤士が苦笑いする。
 そのまま腕を引いてやってきたのは、食堂に隣接されている店――ケーキ屋、パティスリーidea(イデア)。

 ショーケースの中はもう何も残っていないが、その洒落た外装に、九条は興味がそそられた。
「…ケーキ屋なんてあったのか」
「本当はいつもこの時間帯、シャッター下りてるからね〜、こんな時間じゃ売り切れてるもん」

 甘党の九条は、学園内にケーキ屋があったことに感動した。いつも学内までこそこそ買いにでていたのだ。
 しかしその感動も、篤士の一言ですぐに上塗りされた。

「俺からの誕生日プレゼント。何だと思う?」
「…何だ」
「お誕生日ケーキと、今後この店でケーキが無料になっちゃうパスポートで〜す」
「心の友よ」
「へへん、生徒会権限のケーキ無料パスなんだけど、俺いらないからさ〜、あげちゃうっ」

 篤士は生徒会の会計で、甘いものを食べると拒絶反応が出ると言う、九条からしたら人生を80%は損している人間だ。
 しかし今日ばかりは感謝である。

「そうだ、ケーキケーキ。みかんちゃーん」
「あ、篤士っ?」

 みかんちゃん、と呼ばれた人物はすぐに出てきた。前髪とサイドを後ろに流し一つに結っている美男子で、おおきな黒ぶちの眼鏡をかけている、そのせいかやけに幼く見え、下手をしたら九条より年下だ。

「あ、えっと、こんばんは。篤士のお友達、ですか?」
「…ああ」
 本当に年上なのか判断しかねて、思わず素のまま返事をしてしまった。しかし、「みかんちゃん」は気にする様子もない。

「じゃあ、例のケーキだよな?多分、そうだよな?」
「うん、そうだからそんな不安そうな顔しないでくんない」
「わ、わかった…持ってくか?それとも中で食べる?あんま広くないけど…汚いし…うぅ」
「みかんちゃん、ネガティブやめて!じゃあ中でろうそくふーってやつだけ、あとちょっと食べるだけしていい?」
「う、うん、わかった」

 ろうそくふーっ、とすることは九条の夢である。
「…おい、中入って大丈夫なのか」
 九条が篤士の制服をひっぱりながら訊ねた。
「だいじょぶ、みかんちゃん俺の従兄弟だから」
「…………」
 ケーキ職人の従兄弟なんて、羨ましい、と思うのと同時に、本当に「みかんちゃん」は年上なのだろうかと、頭を悩ませた。

「あ、中、どうぞ」
「…ああ」
 結局、そのうち年齢を訊こう、という結論に至り、九条はショーケース横を通り、おそらくケーキを作っている場所に足を踏み入れた。

 大きな業務用の冷蔵庫やオーブンなどが並ぶそこを通り抜けた先に、6畳ほどの休憩スペースがあり、「みかんちゃん」がそこにテーブルと丸椅子を用意する。

 座って、ケーキが楽しみなのかそわそわし始めた九条に、篤士は笑いを堪えるのに苦労した。

 念願のろうそくをふーっとできた九条はご満悦で帰って行った。


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