誕生日の出会い



 九条伊織は全寮制男子校である緋色学園で、もっとも有名な人物になりつつあった。銀色に染めた髪に赤のカラーコンタクト。じゃらじゃら音が鳴るシルバーアクセサリーをつけ、耳にはピアス。整い過ぎた顔立ちに、バランスのいい体。
 九条伊織は、不良クラスであるFクラスのトップなのである。

「九条さんっ、誕生日おめでとうございます――!!」
「…あぁ」

 Fクラスは、他のお坊ちゃん達に危害を加えないよう、寮は別館となっている。食堂などは同じものを使用するが、時間帯が決められている。
 今はFクラスのテリトリーとなる時間で、他の生徒も使用で気はするものの、そんな命知らずは殆どいなかった。
 ただでさえ、今日はFクラスがほぼ全員集まる日なのだ。
 理由はただひとつ。

 九条伊織の「お誕生日」だからである。

「九条さんっ、今日は俺らでおごりますんで!」
「…あぁ」

 下っ端たちが盛り上がる中、九条はテーブルに並べられた料理に目をうつす。肉類が多いのは仕方がない事だが――ない。

 誕生日に欠かせないものがない。

「(ケーキ…ねぇ…)」

 九条は少しテンションが下がった。何せ九条は、生粋の甘党なのだ。しかし、どうやらFクラスのメンバーにそれは知られていなかったようである。
 逆にかわいらしいケーキなど、見せただけで殴りかかってきそうだ、と思っているメンバーも多いだろう。(実際準備段階で計画していたケーキは、そういった抗議でキャンセルになったのだ)。

 しかし、九条はケーキが好き。
 家では、組の運営(職業は察してください)で忙しい父と母から、誕生日ケーキなどもらったこともなく。組の部下たちも買ってこず(Fメンバーと同じ理由で)。
 九条はこっそり買ってきて自分で食べたりしていたのだ。

「(ケーキ、食べてえ…)」

 九条はお誕生日ケーキに憧れを抱いていた。丸いホールのケーキは食べたことがあるが、皆で切り分けて、更にろうそくを「ふーっ」としてみたい。一人でしたらさびしすぎる。

「…チッ」
『びくっ!!』

 九条の舌うちに、Fクラスの生徒たちは震えあがる。

『え…なんか気に食わなかったのか!?』
『あれじゃね、肉料理ばっかだから…』
『けど九条さん肉好きだろ』
 こしょこしょ作戦会議をする生徒たち。フライドチキンを豪快にかじる九条。しかし内心は「お誕生日ケーキ」のことばかり考えていた。
 柄じゃないのはわかっている。
 けれど、ケーキが食べたかった。

「あ、はろーん♪やってんね〜」
「あぁあああ、篤士さんっ!!助けてくださいっ!」
「え、何、どしたの」
 Sクラスで、しかし九条の親友である女郎花篤士(おみなえしあつし)の登場で、周りがわっと盛り上がる。

 九条のことでわからないことは篤士に訊くのが一番だからだ。

「九条さんが…なにか気に入らないみたいなので…っ」
「あ〜…、わかった、理由」
「早っ、え、なんすか!?」
「…」

 ここで「お誕生日ケーキ」がないから、と言っていいのか迷う篤士だった。




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