九条くんの苦情




(蜜柑視点)

すみちゃん隊長くんの誕生日会まであと少し。
俺たちは慌ただしく準備をしていた。

調理部も練習のおかげで、なんとかなるようになっている。
とはいえ、アマチュアなのでケーキ関連では俺のチェックを厳しく入れている。

「あの、蜜柑さん!クッキー生地これでいいですか?」
「……はい。大丈夫です。冷凍庫に入れてください。焼くのは当日に行います」
「え、でもオーブン足りるんですか?」
「業者からレンタルいれました」

着々と進む準備。
しかし、心配なことがある。

ここ最近、理事長の元気がない。それから…生徒会の人に怒られるからだ。
生徒会長が何度も俺に苦情を言いにきている。
ケーキ屋があいていない、そして食堂でもケーキを食べられない状況に耐えられない生徒から不満の声もあがっている。

それだけ求められているのはうれしい事だ。
だけど、俺の体はひとつだ。前に理事長に言われたように、人を雇うのも考えた方がいいのかもしれない。

「……はぁ」
「ど、どうしました?」

調理部部員の顔を見て、俺は首を横に振った。

「ごめん…そ、その、悩みが多すぎてつい…」
「悩みですか…大変ですね。蜜柑さんも」
「まぁ…」

悩みと言えば、九条君だ。
彼は誰よりも俺のケーキを待ってくれている。切れ長の目でじっと睨みつけられると心臓がどきどきして、ついつい色々してしまう。
調理部の準備後に簡単なケーキを作って渡すようにしているが、「生クリームが恋しい」と言われた。

そんなこと言われたってな…と思うしかない。
すみちゃんくんの誕生日会はたくさんお金ももらっているし、ちゃんと成功させないと。



準備が着々と進み、いよいよ前日。
厨房と調理室から甘いにおいが漏れて、噂になってしまった。
ケーキ屋を再開するのか、との声が大きかったが、すみちゃん隊長にバレたのではないかと、それが心配だった。
サプライズらしいので、俺が台無しにするわけにはいかない。

「…」
「…えーっと」

しかし、今は九条君だ。
深夜1時。調理部員を帰して、一人ケーキを作っていると、ケーキ屋の中に九条君が入ってきてしまった。
物欲しそうに焼いているパウンドケーキのスポンジをじっと見つめている。

「…く、九条君」
「……ケーキ」
「あ、あのですね。これは予約の…」
「いつまで待たせる気だよ。客を大事にしろ」
「うっ…」

仰る通りだ。
仕方なく、俺はホールケーキをまるまる九条君にあげた。
喜んで食べる九条君の顔を見ていると、何故だか疲れがふっとんで、頑張れてしまったのは気のせいではないと思う。

「(本当においしそうに食べるんだよな…九条君)」

ほっぺにクリームをつけながら、ケーキをかじる九条君の姿に、母性本能がくすぐられた。
俺男だけど。
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