妻の寝返り夫の想い
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皇毅と一緒に心地が良い敷布の上をコロコロと転がる夢を見た。
否、
夢ではなかった。
−−−コロン、ズテン!
奇妙な低音と共に身体が重力に押し潰されたような強い感覚で目が開いた。
視界が横転して床が見え冷たい石材が肌に貼り付いている。
(……………え、)
玉蓮がパチパチと瞳を瞬かせていると、衣擦れの音がして皇毅が寝台の上から見下ろしていた。
「…………皇毅様」
「大丈夫か」
皇毅は寝台の上。
自分は床の上。
(私、もしかして……寝台から……落ちた………)
ありえない
見詰め合い状況が頭に流れ込むと、玉蓮はいきなり毅然と立ち上がった。
ぱたぱたと夜着の裾を手で払い、腫れたように紅くなる頬を隠すように俯いたまま再び寝台に上がり込む。
「………どこか打ったのか」
唖然として助け遅れた皇毅が背を撫でるが、玉蓮の頬は熱くなるばかりだった。
「な、何ともありません」
上擦った声が情けなくて更に背が茹でられた海老の如く丸まってゆく。
皇毅は今まで寝相が悪くて寝台から落ちた女など見たことないに違いない。
茹で海老のまま追い詰められた胸がぎゅっと締め付けられる。
真夜中の安眠妨害
「……申し訳ありません」
「二人で……休むには、もう少し大きな寝台が必要だと考えていた所だ」
気にするなと抱き寄せられる。
『気を使う』という文字が自伝にない皇毅の精一杯の淡々口調は玉蓮の口をへの字に歪ませるだけだった。
への字を眺めながら、皇毅は静かに溜め息を吐いた。
−−−何かまた面倒くさい事になる気がする
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