葵皇毅の秘密



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王宮には各部署に所属する武官の詰め所が点在しており日々怒声と蛮声、たまに悲鳴まで起こっていた。

御史台にも無論武官達の修練場がある。
そこに今日は珍しい人物が無心に弓を引いていた。

皇毅は二藍の上衣から片腕を抜き出して長い弓束の弦を引き絞り、空気が沸き立つと指を開いて矢を打ち放つ動作を繰り返えす。
ビッ、と空気が切れる音と共に矢が的中すると遠巻きに眺める部下達が的中の度合いを耳打ちしながら見ていた。

そんな野次馬にも集中力を途切れさせず続けていると、ふわりふわりと衣擦れの音がやけに耳につく。
今度ばかりは視線を移した。

「皇毅〜!」

「…………全く、ここは御史台の敷地だぞ」

引き絞った弦を弛め集中力が霧散してゆくことに苛立ちを覚えた。

「ねぇ、こんな所で何しているんだい」

「見て分からんのかクラゲ」

さくさくと道を分けて皇毅の横で腕を組み、的に突き刺さる鏑矢を数えた晏樹は柄にもなくニヤリとわざとらしい笑みを洩らした。

「もしかして若妻娶ったから張り切って身体鍛えているの?こんな所で密やかに」

普通言わないだろう事を平気で突いてくる幼馴染みがかなり憎ったらしい。

「馬鹿め、最近忙しくて狩場に出られんが弓の腕を鈍らせるわけにはいかんだろう。お前も果実ばかり食っていると今に腹回りが樽になるぞ」

ビシッと長い指を晏樹の腹回りに向けるが、どうせ説教など聞かない事は分かっていた。お互いが耳半分の会話だ。

「なんて寒い言い訳だい。ふふ、図星だね〜若妻医女さんによろしく」

締まりのない言葉を残して踵を返し去ってゆく背を眺める。毎回一体何がしたくて現れるのか長い付き合いを経た今でもよく分からなかった。

再び弓を握るがこれ以上弦を引き絞れば指の皮が破れてしまうことに気がつき、今日はもう止めておくかと腕を下ろした。



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(秘密にしていることなどあるものか)

夜半、自宅の臥室にて玉蓮の姿を横目で愛でながら改めてそう思う。

早々に帰邸できた日は皇毅の専属医女だと張り切る妻の施術で気血の巡りを整えて貰う事が習慣となっていた。

足背から脈をとり様子を診ながら身体を解している妻の姿に心が満たされる。
しかし身体は少し物足りない。





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