葵皇毅の秘密


玉蓮の方はうつ伏せの状態で静かに施術を受けている皇毅にすっかり安心し、大胆にも背中に乗り上げて推拿を施していた。

「生殺しなんだが……」

「え、?殺すだなんて………ご冗談ばかり」

また玉蓮のくだらないとぼけ返し。
惚けていると思えば厭がらせの一つもしたくなると、皇毅はぐるりと仰向けに身体を回転させた。

「きゃ、!な、なんですか」

思わぬ事に仰向けになった皇毅の上から降りられず馬乗りのまま目を白黒させる。
まるで睦みあっているような恥ずかしい体勢にみるみる顔が紅らんできた。

「まだ、施術中なのですけれど」

「それは悪かったな」

袂が乱れておりスラリと流れる腹筋が玉蓮の視界に入っていまう。
怒りたいのに言葉が続かず目を逸らしたりまたチラリと見たりを繰り返していると愈々頬が熱くなってきた。

(皇毅様のお身体って凄く、綺麗……)

言えない想いを胸に押し込め、遠慮がちに細い指先を逞しい腰に触れさせると−−−−

ガシリ、と腕が掴まれた。

「………ク、やめろ」

「……………?」

絶対に喜びそうな行動だと思ったのに何故だか止められてしまった。
不思議に思い見開いた瞳をパチクリさせる。

皇毅の方は至極気まずい思いで玉蓮を見据えていた。

(自分でもすっかり忘れていた……)

身体が上気し昂っている時は全く気にならないのだが素の状態で前から腰肌を撫でられるとたまらなく、とにかく


−−−不快



「皇毅様………」

眉を下げて小さく名を呼ぶ声に拒絶ではないことをどう伝えるか思案していると玉蓮は小首を傾げた。

「今のって、もしかして………くすぐっ―――」

皇毅はすかさず玉蓮の頬をつねる。
むに、と頬が横に伸ばされた。

「ひたひ………こうき、さま」

「今の言動、隅から隅までまるっと忘れろ……いいな」

氷点下の形相で睨まれコクコク頷くとやっと指を外して貰えた。
しかし玉蓮は頬を擦りつつ早速唇の端が上がってしまう。

「うふ、ふふふ……」

もう一回だけ触ってみたい。

「皇毅様、笑うと免疫力が上がると言われております。施術にお入れましょうか」

「お前ッ!………」

「きゃ、冗談です!秘密ですよね?」


嗚呼なんてこと、自分でも忘れていたのによりにもよってこの妻に勘づかれるとは。


しかし、やられたら三倍やり返す


知られたくない『秘密』を知ってしまった妻に、どの様にやり返してしてくれようかと皇毅は回転の早い頭で策を練り始めるのだった。




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