紅い刻印


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−−−始めは、医女とはいえ女人に身体を預ける事に抵抗があったはずなのだが、今ではすっかり慣れていた



葵邸西の臥室にて、温石で温められた寝台に身体を横たえる皇毅は、疲労が蓄積していた為もあり妻の施術を受けながら昏々と眠りに落ちていた。

眸を閉じ寛いでいる夫の様子を満足そうに眺める玉蓮は笑みを洩しつつ、ふと眉を下げる。

(皇毅様……、本当はですね、今日はちょっとだけ、構って頂きたかったのです)

頬を染め恥ずかしくて言えない思いを胸にそっと刻み、温石を片付けると皇毅を起こさないように自らも傍らに身を寄せた。

穏やかな息遣いを聴きながらそのままトロトロと瞼を落とす。

(お会いできなくて寂しかった……)

起こしてはいけないのに、朝になれば再び出仕していまう皇毅に何だか今夜は甘えたくて仕方がない。

想いを巡らせていると不意に皇毅が情事の後、寝入る間際にしてくれる愛撫の一つが脳裏に浮かんできた。

(ちょっとだけ、同じように私がして差し上げてもいいかしら)

寂しさから段々と目が冴えてきてしまい、掛布の中からゆっくりと這い上がり皇毅の首筋へ唇を寄せてみる。

よくしてくれる愛撫、
それは首筋に唇を寄せ『紅い印』を散らすこと。
首筋や手首、際どい箇所など様々だが玉蓮が真似できそうなのは首筋くらいだった。

(でも………吸いつけば付くのかしら?)

こっそりやってみようとするが、いざとなるといまちい方法が分からない。
パチパチと瞳を瞬かせ、悩んだ末に寝台から降りて自分の衣装棚へ赴くと、皇毅が起きていないかちらりと振り返る。

寝入っている姿を確認すると、再びこそこそと抽斗を探り奥底に隠してある『情事教本』を取り出した。

侍女達が「お止めください!」と泣き付くのを振り切って春本を一冊拝借してきただけなのだが、玉蓮は至極真面目に春本を手に正座をしてパラパラと頁をめくる。

(何だか図解ばかりで秘訣が書かれてないのよね……)

春画の愉しみ方をすっかり間違えたまま目を走らせる。

しかし残念ながら印をつける手技は載ってないようで、暫く眺めていたがパタンと冊子を閉じ再び抽斗へ隠し寝台の方へ振り返る。

「……………ぇ、…」

見れば寝ているはずの皇毅が片肘ついて頭を起こし、視線は此方を向いていた。

今の今まで寝ていたはずなのに。
ちょいちょい、と指まで倒してこっちに来いと呼んでいる。

見られていたと合点した玉蓮の心臓は途端に早鐘を打ちだし頭は真っ白になる。

見えない糸に引かれ、寝台へ手繰り寄せられると皇毅が静かに口を開いた。





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