妻は御史を諭す言官



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蒸し暑い夏の陽射しを避け邸の四阿で寛ぐ葵夫妻。

宮城での隙のない冷徹な風貌はどこへやら、皇毅は妻の膝枕を使って寝そべり趣味で集めた公案小説を読み耽っていた。

一方の玉蓮は夫に膝を貸しながら、最初は眼下で揺れる皇毅の前髪を指で触れつつ、刺繍の続きに勤しんでいたが段々それも飽きてきてしまった。

ふと、傍らに積んである小説の冊子に手が延びる。

「皇毅様、これ私も読んでよろしいでしょうか?」

「…………」

返事がない。
ただの枕だと思われている。

返事がないのでパラパラと冊子を捲ってみる。すると玉蓮は直ぐさま、どす黒い公案小説の世界へと落ちていった。

「…………」

心地好く柔らかな枕がぷるぷると震えている。
皇毅は文字に貼り付けていた視線を上げた。

見上げる先には冊子を手にカッと瞳を見開き震えている玉蓮の姿が映った。
小説に熱中しているのは分かるが、何故震えているのだろうか。

「どうした…………怒りナマズ」

「…………こ、こ皇毅様……このお話し、」

声まで震える玉蓮がどんな話を読んだのかと皇毅は起き上がり、手許の冊子を覗き込んだ。

「成る程、お前が飛び付きそうな話だ」

「皇毅様!この事件は明らかに変だと思われませんか!?」



−−−とある貴族の正室が、自分を愚弄した側室を殺してしまった

正室は大貴族の娘

側室は元下女


正室は卑しい者が尊いものを愚弄した罪は重いと刑部に訴える

夫は側室を庇うどころか正室の言い分を認めた

そして結局、裁かれるべき正室にはなんの罰も下らなかった




「……って、何て後味の悪い小説なんですかこれ!刑部って……あの小粋な読経の官吏様ですか!」

小粋な読経……。

妻まで知っているのに皇毅は未だにその読経とやらを聞いたことがなかった。

生涯聞くつもりはないが。


「熱くなるな、これは作り話だ。しかし現実も似たようなものだろう。お前は後宮にいたのだから人豚の刑くらい受け流す根性があるのだと思っていたが違うのか」

「そ、そんな話、口に出すのも恐ろしいことです!私がお仕えしていた貴妃様は可憐でお優しく、主上にとって唯一無二のお方でした。私は……!」

「お前は本当の後宮の姿を知らないのかもしれないな」

「え、……」







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