妻は御史を諭す言官



「先王時代の後宮は、たいそう骨のある妾妃どもで溢れかえっていたぞ」

皇毅の脳裏に、捜査を完全にかい潜って暗殺を実行した第二妾妃、鈴蘭の君がふと過る。

「そ、そうなのですか」

しょんぼりと俯く玉蓮の頬に長い指が当たる。
スルスルと優しく撫でていると白い手のひらが重なった。

「先王陛下の後宮には、沢山のお妃様がいらっしゃったようですね……紫劉輝様も公子でいらっしゃった頃、お辛い目に遭われたと聞いております」

「表向きは優雅で絢爛、しかし中身は腐りきっていた。先王崩御と共にそこから膿が流れだし妾妃達は共倒れしていった」

皇毅は御史として、ただ崩れてゆく様を眺めていた。
当時女性にして唯一官位のある妾妃達を御史は罪に問えるが、本当にそれが出来るのは御史ではない。たった一人の男だけだった。

だからこれは、計算された奸計のごとき争いなのだと思っていた。
誰に仕組まれていたのか、追及は出来ない。

しかし後宮が倒れれば強い力を持つであろう皇太后は存在しなくなる。

皇毅にとっては願ってもない事だった。



−−−−もっと争い、早々に倒れてしまえ



後宮の敷地に広がる池を眺める振りをして、池の対岸でおこる事態嗤っていた。



「懐かしい話だ」

考えている事を悟られぬよう適当な感想を述べる。

「劉輝陛下は、もうそんな争いを見たくないから……お妃様は一人とされたのでしょう。ご立派ですよね」


ね、?


柔らかく微笑む玉蓮を見上げ、結局行き着く話はソコかと皇毅は眸をすがめる。

あと何回『妻は私だけですよね?』と釘を刺されるのかと思えば、流石に嫌気がさす。嫌味も言ってやりたくなる。

「アレはただ、女に対して面倒臭いだけだ」

「アレって……まさか主上の事ですか!?違います。主上は桜の木の下で運命の人を見つけてしまったのです。今でも想って下さっているのです……素敵」

「何が素敵だ。ソイツはそんな薄気味怖い想いをぶった切る為、縁切り寺へ駆け込んだ方がいい。呪いを祓うべきだ」

「ソイツってまさか秀麗様ですか!?」

「さっきから勘がいいな」

「あからさまです!」

玉蓮とのやり取りに、思わず饒舌になっている事に皇毅自身も驚いた。

「お前とくだらん話をしていると癒される」

「……ありがとうございます。癒されついでにお返事をくださいませ」


やっぱり嫌気もさす
普通、思っていても言わないだろうに



「では私が、生涯お前を唯一の妻として添い遂げる偉業を成したなら、代わりにお前はどんな事をしてくれる」

「私ですか?」

玉蓮はパチパチと光に透ける薄い瞳を瞬かせた。

「私も生涯、同じように皇毅様を愛します」

「当たり前の事を偉そうに……その口はどこまで生意気なんだ」

柔らかい頬をつねってやると痛い痛い、と騒がれる。

皇毅にとって難しい事ではない。
釘を刺されなくとも、妻は白薔薇の君だけと決めている。

逆に白薔薇の君は今の話を守るだろうか。

当たり前の事だと釘を刺さねば気が済まない。

「今の話、違えるなよ」

案外、自分も面倒くさい男なのかもしれない。




生涯お前を唯一の妻として添い遂げたなら、


お前は生涯私だけを愛しぬけ
















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