残照


皇毅の邸では夕刻の宴の為に下拵えした膳用の料理を前に侍女達が頭を落として泣いていた。

何故泣く必要があると凰晄が一喝しても誰一人として泣き止まず、凰晄も匙を投げたくなる。

彼女達にとっては主人である皇毅にやっと幸せが訪れたと喜び合いながら作った宴席料理だった。
それなのに御前へ上がる前に事態が一変し、どうやらもう取り返しがつかないのだと皆が察していた。

(情けない……)

凰晄はまだ使い物になりそうな男手にその場を任せ西の対の屋に位置する皇毅の室へと向かう。

西の対の屋では邸に呼ばれた侍医と玉蓮で皇毅の負った傷口の治療に当たっていた。

「傷の方は全く大事には至っておりません。応急措置が大変よろしゅうございました」

侍医は一通り治療を終えて御養生下さいと頭を下げる。

「お前の止血が良かったようだぞ」

皇毅が横に控える玉蓮に言うと、少し顔を紅らめて玉蓮も一礼した。

そして数日分の煎じ薬と炎症止めになる貼り薬を置いた侍医は、万が一に傷が増悪したらお呼び立て下さいと言って室を退出する。
玉蓮も続いてそそくさと室を出ようとするが「お前は待て」と皇毅に袖を掴まれた。

「は、はい何か」

焦って振り返るが呼び止めた本人は、別に、と素っ気ない。

意味が分からず玉蓮は眉を下げるが、そっと皇毅の傍に寄り包帯布の当て具合を確認してみる。
一つだけ、訊いてみたい事があった。

「皇毅様あの……さ、三の…姫様は……」

小さく消え入りそうな声を絞り出すと皇毅が自分を見据えているのが視界の端に窺えた。
侍女の自分などが訊いてよい内容ではないのに、どうしても知りたい。

あの美しい姫と何があったのか、二人は愛し合っていたのか。

「気にするなと言っただろう」

「………」

俯く玉蓮に皇毅はにやりと笑った。

「嫉妬しているのか」

えっ!、と驚いて目を見開いた。
自分の拙い想いが知られたのではと心配になり立ち眩みを起こしそうだ。

そんな玉蓮を見ていた皇毅はまたちょいちょい、と指を倒している。
内緒話で教えてやる、そう言っているようだ。

玉蓮は煩く早鐘を打つ鼓動が皇毅に聞こえないか不安だったが、皇毅の気が変わる前にとそっと耳を寄せてみた。




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