終わらぬ夢


衣擦れの音が耳に響き暗がりにも押し倒されている事が分かった。
玉蓮は瞳を大きく瞬かせて覆い被さる影を見据える。


『夜伽もどうだ?』

『妓女ではなく医女です!』


何度も繰り返したやりとりが脳裏に蘇る。
皇毅はからかっているだけだ。

今日とてコウガ楼に現れた。
仕事中だと言っていたが他の御史などいなかった。
本当は登楼していたのだろう。

だからその続きで妓女と遊ぶように押し倒している。
誠実な人だと思っていた幻想はとうに晴れ、最早自分の手には負えない人だと感じていた。


−−−−−でも、


こんな風に独占出来る夜はもう何度もない。
離れてしまったら、皇毅は自分の事をすぐにわすれてしまうのだから。

再び誰かを好きになる事はもうないだろう。
今思えば皇毅に対して好意を持った事すら打算的な感情だったのかもしれない。
窮地を救ってくれる御史大夫に恋をしていた。

そして皇毅からしたら寂しさを紛らわすには丁度よい相手だった。

飛燕という人には遠く及ばないのだ。

「また妓女扱いしていますか?でも妓女になれば今夜だけ皇毅様を独占出来るのですね」

私の心身を害するので妓楼に通うのはやめてくださいと勢いづいて止めた事を思い出した。
皇毅は妻がいるのに妓楼通いするとは失礼千万だったと詫びてくれた。

「妻でなくていいのか」

玉蓮は瞳を閉じ、溜息は我慢し飲み込んだ。
ようやく本音が聞けた。
皇毅はさぞ安堵していることだろう。

籍をいれてくれなかったなんて知らなかったから唯一無二の妻になれる夢を見れていたけれど、本音は侍妾くらいの関係を望んでいるのだと。
ようやく漏らしたその言葉から伝わってきた。

それは凰晄の言う通り薄情で吹けば飛んで行きそうな愛情。罪人の家の娘という桎がそうさせているのならば仕方のないことだった。

だから安心させてあげなければ、伽の夜が明けてもなにも変わらないと。
人肌が恋しいからこうなっているだけと言えば何も変わらない関係のまま今夜だけ皇毅を独占出来るのだから。

「妻でなくてもいいです。何もなかった事にします。今夜はとても寂しい気持ちなので、紛らわせてくださればありがたいです」

男にとって都合が良すぎる言葉を吐いてうっすら開けていた瞳を再び閉じた。
抱いてくれたらきっと寂しさが紛れる。

明日どんな気持ちになっているのか、そんな事は考えたくはない。
後悔や虚しさだけが残るのかもしれないけれど、今ある心の疼きを紛らわせてくれるのならば、それでもいいと思った。
皇毅に出来ることはそれくらいだろうから。

「心中ダダ漏れだな」

ぽつり、と感想が返ってきた。





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