終わらぬ夢


好都合とばかりに服をはぎ取られるだろうと思っていたのだが、瞳を開くと暗がりに皇毅の顔が見えた。
相変わらず無表情だった。

据え膳が目の前に寝ているのにどうしたのだろうか。

「一夜の情けを乞う妓女の心中を察してくださるのですか」

そう言うと皇毅の双眸が引き攣るように細まり長い指が伸びてきて頬を横に引っ張った。

「ひたたたた!」

(なにこれ、どうして!?)

二度と出ないかもしれない据え膳だったのに、皇毅は何が気に入らないのだろうか。

「こうきさま……ひたい」

「タダより高いものはない。そんなもの恐ろしくて抱けるか」

「は……はぁ、?」

罠だとでも思っているのだろうか。
そうだとしたらあんまりだ。

「無銭で抱ける妓女の爪には毒が塗られており、自分の爪を舐めてから私に口づけをして心中。そんなところだろう」

「なんですか、それ」

結局、蓋を開けてみれば抱いてさえ貰えないとは。
寂しさを紛らわせるどころか恥をかいただけだったと、もう苦笑するしかない。

「私の事をそんな風に警戒されていたのですね。不安にさせて申し訳、」

続きを結ぶ言葉が涙で掻き消えてしまった。
どうしてこんなに悲しくて悔しいのか。
それは妻になれると勘違いしていた昔と、そして今でも侍妾にしたいくらいには愛されているだろうと勘違いしていた自分に対してだった。

本当に爪に毒を塗っていたら思わず舐めてしまったかもしれない。

「ダダ漏れとは、巻き込んで心中しようとしているという魂胆でしょうか。確かに無銭で抱ける妓女なんて怖いですね。否定できる証拠も持ち合わせておりませんので…もうお傍に近づきません。ご安心くださいませ」

もっと早くはっきり伝えてくれたら弁えたのに。
一晩の慰めも断られたと知られたら凰晄にも見限られこの邸にはいられないかもしれない。

もう顔も見たくない。

よろよろと起きあがるとそのまま這い出るように寝台の縁へ身体を寄せた。
しかし何かが引っかかっている。暗くて何が絡まっているのか分からなかったが、一刻も早く離れたい気持ちを抑えて振り返ると腰帯が乱れており、その先端を皇毅が持っていた。

「………」

何も話したくありませんと無言で帯を引っ張る。

「まだ話は終わっていない。お前はいつも肝心な話をする前に去って行くが、人の話は最後まで聞け」

「背中のお具合もまだ良くないようですしもうお休みください。お話は皇毅様のお時間のある時に改めてお窺います」

今日は殊更疲れた

虚しい

皇毅に愛されていないと知った途端、細い糸がぷっつりと切れてしまったようだった。





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