真夜中の来客


皇毅が眸を閉じると先に寝入ってしまった玉蓮が暖を求めているのかごそごそ、と身をすり寄せてきた。

寝相の悪い女は嫌いなはずなのに何故か玉蓮に対してはあまり苛々しない。
そして毎回生殺しにあってしまうのに何故か毎夜同じ事を繰り返している。彼女に未練がましい自分が滑稽になってきた。
知られたくない事を探りに来たと分かっているのに、ついうっかり油断して布団に招き入れてしまっている。

つい、うっかり……。

「重傷だな…」

小さな声を洩らすと小さくなっていた身体が再び身じろぎする。

「こうき、さま……」

腕の中から小さな声が聞こえてきた。
皇毅はきつい双眸を見開いた。傍にいると肌で察しているのだろうか。

どうすれば不都合無くこの女を傍においておけるのか、そんな最低な事を覚醒ついでに考えていると寝殿の扉が叩かれ幕の外に人の気配がした。

気配から家令が来たことを察する。
この仲良しの図を見られたら、今度こそ玉蓮は家令にシバかれるのだろうかと呑気に考えていると幕の外から声が掛かった。

「当主に来客です」

………来客。

あまりの想定外に皇毅は身を起こして玉蓮を布団の中に隠すと室を仕切る幕を上げた。

「今何時だと思っているんだ」

同じくらいムカっ腹が立っていると思われる家令は目が据わっていた。

「何故それを私に訊くのですか。葵家の沽券に関わりますので『今何時だと思ってんだこの屍人尚書』とド突いて来て下さい」

………屍人尚書。来俊臣。

その言葉で呪いが掛かったように一気に疲れた。居留守使おう。

「居ないと言っておけ」

「申し訳ございませんが待つとか言われたら最悪なのでお連れしますと言ってしまいました。正殿までお出まし下さい」

だから今、何時だと!同じ言葉を飲み込んだ。
他の者だったなら話は別だ。何か火急の用件だと判断し駆けつける。

しかし来俊臣は別だ。
亡霊みたいな生活している彼は午に訪ねてきているつもりなのだろう。
同じ言葉が頭を回るが、宮城に泊まり込みで詰めていた時も夜中に普通の顔して訪ねて来た事が何度もあった。

その時は仕事の延長だったので此方もさして気にする事無く普通の顔して会っていた。

それもいけなかったのかもしれない。
その時から『丑三つ時の対面お断り』とでも扉に貼っておけばよかった。

自分にも否があるのかもしれないが、調子こいて邸にまでノコノコやって来られてはたまったものではない。薄気味怖い。

「承知した。家が呪われでもしたらとんでもないので撃退してやる。正殿で対面するが茶など出さなくて結構だ。もう休んで構わない」

礼をとり正殿へ向かう皇毅の背を見送った後、凰晄はおもむろに寝殿の布団の中へ目をやった。




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