幼馴染みの思惑


皇毅は手を止め幼馴染みの思惑に瞑目する。
玉蓮を浚って何をやらせようとしていたのか気になっていたのだか、それがようやく分かった気がした。

(晏樹が欲しいものは阿片だ)

お前は…、と声を掛け、暫し間をおいた後問う。

「阿片団子のようなものは作れるのか」

急な言葉に驚く瞳は暗雲がかかったような色に変わる。
確かに北の医倉では秘密裏に阿片が作られていた。
その医倉にいた医女達もケシの実から精度の高い阿片を作り出す方法を知っていたという事だ。

疫病患者を治療する医倉は人を遠ざける隠れ蓑。
玉蓮はそんな医倉から逃げ出し後宮の医女官となっていたと考える者がいてもおかしくはない。
精度の高いその阿片を作り出せる医女の一人である可能性がある。

他の医女達は捕縛に当たった刑部尚書に牢へ入れられてしまったのだろう。
玉蓮は阿片を作る事が出来る最後の医女かもしれない。俊臣はその可能性を知りつつ見逃した。
しかし晏樹は見逃さなかった。

「私は……阿片など、作れません…そもそも知らなかったのです」

瞑目していた皇毅は眸を開き、冷たい双眸のままに言葉を返した。

「北の医倉はほぼ阿片窟になっていた。万能の鎮痛剤として患者に試され、おそらく製造に関わった者達も半ば阿片中毒になっていた事だろう。しかし私が見る限りお前は阿片には侵されてはいない。関わっていなかったという話は信じられる」

信じられるならば、何故訊いたのか。

「どうして今頃そのような話を……」

北の医倉のことは玉蓮にとって辛い思い出でしかなかった。
医女ソリが口封じの為に毒殺され、自分も兇手に命を狙われた。結局誰に命を狙われたのか、未だに謎のままだ。

「お前が阿片を作製出来ると推測された理由は、医倉の薬材の出納記録を書き記していたからだろう。無意識のうちに阿片には何が必要なのか、どの程度必要なのかを正確に書き記してしまった」

「え、……あの記録が?」

確かに玉蓮は支給される薬材の管理に疑問を抱き、秘密裏に出納帳をつけて隠していた。
その記録を辿れば阿片が煙のように現れる。そう皇毅は言っているようだ。

「作り方も知らないのに……出来るわけありません」

そう、玉蓮にそんな神懸かった能力などない。

(晏樹の事だ……それでも利用しようとしたのだろう。阿片を作る者はいずれ自分も阿片中毒になる。調度いい捨て駒を探していたに違いない)

つくづく、不運な女だと思う。特に男運は最悪だ。
そして玉蓮にそれを伝えるべきか迷う。

しかし皇毅は彼女の後ろに背後霊のように貼り付く紅秀麗を今日もまた見てしまったのだ。

門下省次官は阿片製造にとても興味があり、密輸ではなく作製しようとしている疑いありと紅御史に漏らすも同然だった。

旨い話に誘われ晏樹に着いて行くとどうなるか……玉蓮に釘を刺すだけでもよしとする。
そう結論づけた。

「何故私が急に阿片の話をしたのか考えてみるといい。自ら悟る分には問題はない」

これでこの話は終わりだ。

皇毅の言葉尻は穏やかなものだったが、だからこそもうこれ以上話す気はないのだと知れる。
しかし玉蓮はこれだけは、と繰り返した。

「私は医倉を潰した阿片などには絶対に関わりません。これからも絶対に」

その言葉に皇毅は頷いただけだったが暗がりにも安堵したような表情が玉蓮の瞳に映った。




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