お嬢様と護衛


店を後にした二人は少しずつ店が開き出す大通りを歩いていた。

「皇毅様、これからどちらへ向かうのですか?」

ちょこちょこと後を付いてくる玉蓮に目を向け「皇城へ戻るつもりだ」と穏便に伝える方法を模索する。

もうバレバレだったが薬材店へ行ったのは紅秀麗が掴んできた不正の調査を担当御史に命じ、使えそうな地元民に協力を要請しに出向いただけだった。

しかしそれすら御史に命じておけば良かったのだが以前玉蓮が世話になっていた薬材店だと知り挨拶も兼ねて自ら出向いたのだ。

仕事の内容を彼女に伝える気はない。
特に今回は玉蓮にも危険が及ぶ可能性があるので関わらせる気は毛頭無かった。

「あ、綺麗な飾り紐…」

足は止めないが露天に並ぶ装身具に目がいっている姿に皇毅の方が足を止めた。

「もっと良い品を贈ったはずだがこれがいいのか」

その言葉に威勢のいい掛け声が飛んできた。

「旦那様ぁ〜おはようございます〜!!足を止めていただきありがとうございます〜!!見ていってくださいまし〜!!さぁさぁどうそどうそ、」

露天商が頭を下げた。
此方へ引き寄せる為に大声を出した露天商は諂いながらも瞬時に皇毅達の値踏みをする。

簡素な外套を羽織っているが髪の結い方と歩き方で金持ちだと判断する。
そして成金ではなく貴族の方だ玄人の目は見逃さない。なかなか露天には足を止めない上客だ。

対して一緒にいる美しい女人は身分違いだが気に入られて口説かれている女官か妓女だと当たりをつける。
こんな露天に足を止めてしまうあたりで身分が知れる。

この美人は貴族と宴席か何かで気に入られた情人。
そしてご正室には秘密だがこの美人の気を惹くために何でも買ってやりたい段階とみた。

(まさに無双!高いものをより高く売りつけねば…!!!)

「旦那様お待ちくださいね。この美人に相応しいお品ものが実は葛籠に入っておりまして!ただ今お出ししますから見ていってくださいまし〜」

はいはい、出しますよ。
と独り言を呟きながら葛籠を探りだす主人に玉蓮の目が座る。
何故座ったのか皇毅も察した。

「この美人…って何ですか」

ぼそり、と呟く。

「お前の事まで装身具だと思っているようだぞ」

収める所か焚きつける。
美人と言われても全く喜ばない玉蓮の性格は熟知していた。
後宮女官に及第する容貌なので言われ慣れている上にそんなものに価値を見出していない。
それよりも一緒に歩いていても奥さんに見えないというのが彼女にとって大問題なのだろう。

「私は皇毅様の装身具なのですか…?」

これでは街を歩き綺麗な装身具を見た思い出が辛いものになってしまうだろう。

皇毅は玉蓮を自分の後ろに引っ込めた。
丁度露天商も葛籠を台の上に置いて中身を出して見せびらかしだす。

「此方は有名な職人に作らせた螺鈿と貴重な夜光玉で作られた簪でございます〜!!これぞというお客様にしかお見せ出来ません」

美人が後ろに引っ込んでしまっているが、売りつけるのはこの貴族なので問題ないとしゃべり出す。





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