年々歳々


秀麗と静蘭、二人が共にコウガ楼へ来てくれるのはとても心強いが、玉蓮は化粧水を売りに行くのではなく、本当は貴族達の賭博に参加し『不老不死の丸薬』を手にいれようとしている。

そんな事を言えるわけもないし、言ったところで止められるに違いなかった。
しかし『不老不死の丸薬』を手に入れる手段は他に見あたらない。

親切心丸出しの表情で微笑む二人にどう断ればよいか思案していると、更に嬉しそうな邵可が父茶のお代わりをお盆に乗せて戻ってきた。

今度の父茶はなにやらブクブクと泡立っている。

何をどうしたら泡立つのか分からないが、茶器から溢れんばかりの緑色の泡が吹き出していた。

途端に秀麗から笑顔が消え、静蘭も自分の分まであることに瞑目した。

「おまたせ」


−−−−−待ってないし……

言えたらどんなに楽になれるだろう。

泡立ち父茶が卓子に並べられると、沈む二人とは対照的に玉蓮の瞳が輝いた。

「まぁ……!今度のお茶も健康に良さそうですね。みなさんの事を思う気持ちが溢れております」

クッ……。堪えたはずの笑いが静蘭から漏れた。

「ち、ちょっと玉蓮さん!?父様の淹れるお茶を甘やかさないでくださいッ!溢れているのは気持ちというより怪しげ極まりないアブクでしょ」

怪しげな泡呼ばわりされ邵可は少し困り顔になった。
凹んでいるのかどうか微妙な困り顔だ。
旦那様は凹んでいないと踏んだ静蘭も加勢に入る。

二杯目まで飲まされてなるものか。

「お気持ちがお茶に顕れているのは承知ですが、古来より人は不味いものを『毒』だと認識し命を繋いでおります。つまり、毒かもしれないと感じながら飲み下すのはかえって健康に悪い可能性も否定しきれません」

蘊蓄垂れ出す二人に構わず玉蓮は父茶をコクリ、と飲んでみた。

「煮詰めて濃縮されたお茶に薬草まで入っております。良薬口に苦しと云うに相応しい素晴らしいお茶ですね。私の薬草饅頭も精進せねばなりません」

本気で言っている医女…。

「ありがとう玉蓮さん。ほら、二人も冷めないうちに飲みなさい」

本気で得意になっている邵可。

そう、冷めたら更に飲めたものじゃなくなるので、どのみち飲むなら早いうちがいい。

(玉蓮さんの薬草饅頭と父様のお茶って、同じ類のものだったのね……。悪気は無いけれど、美味しく作ろうという気は更々ない……ガクリ)

秀麗は項垂れながら明日は突発でお休みを貰おうと心に決めて、真夜中の父茶を飲みくだそうと決意した。
どうせ葵長官は明日は不在なのだろうから、別に構うものか。

観念諦念の様子の秀麗に、静蘭も場の空気を読むべきか迷っていた。
しかし、自分は先ほど一杯飲んだのだ。何故お代わりまで飲まなければならないのだろうか。

(それにしても、玉蓮さんはこの泡茶を本気で賞賛しているのか?)

もう一人、邵可の父茶を逃げ出さずに飲み下す女性を知っている。
以前に府庫を訪れたときに、後宮筆頭女官であった珠翠がもてなしに出された邵可のお茶を顔色一つ変えずに飲んでいた。

和やかな雰囲気を壊すまいという必死の笑顔は見ていて忍びないものだったが、同時に珠翠は邵可に対し特別な想いを寄せているのかもしれないと感じ取った。

それくらいの気持ちがないと……飲めない。

(確か、旦那様と御史台長官は同世代……か)

あり得ない話でもないか、と静蘭は卓子に肘をついて一考した。





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