酷いこと.2





「…っ、ゆま、…ぁ、ちょっ…」


両手を頭の上で纏められて、ゆまっちの左手で抑えつけらている私。
彼の右手は私の足元へと向かっていた。

…ゆまっち隠れ鬼畜事件から、数分、数十分。
長い長い愛撫を受けた私の身体は、まぁ言葉にせずとも火照っている訳でして。
厭らしく私の太腿を這う彼の手が、私の下着に触れて止まった。


「…わ、すっごい」


くるくると円を描くように、私の下着をなぞる彼。
甘い沁みが自分でも分かる。
だからこそ、そんな柔い動きだけじゃ足りなくて、どうにももどかしく身体を捩る。
彼はそんな私をお見通しのようで、にやにやと笑みを浮かべる。


「どうしたんすか」


分かってるくせに。
そう悪戯に言いたいが、口を開けば甘ったるい声しか出ない。
快楽に呑まれないように、せめてもの抵抗としてばたばたと暴れてみせる。


「…っぁ、ゃ、やだ、…だめ、ぇ」


「あぁこら、暴れちゃ駄目っすよ。
あんまり暴れるなら、その両手を縛り上げてもいいんすよ?」


「…ぅ、」


ぴたり、と動きを止める。
両手を縛られるという事は、私の身動きが完全取れなくなるという事で、しかもゆまっちの両手が空いてしまうという事で。
つまりは今よりももっと苦しくなる訳である。
彼の両手を使って、もっと激しく責め立てられるのだ。
想像してみれば、何だか身震いした。
私も大概マゾ気質があるのだろうか。


「…っはは、すぐ大人しくなりましたね。
そんなに縛られんの嫌なんすか?」


そこまで拒否されたら、逆にやってみたくなっちゃうっすよねぇ。
そんな悪魔みたいな声が上から落ちて来て、嘘でしょ、と声を漏らす。
嫌だ、それだけは嫌だ。
是非ともSM初心者の私としては、急に縛るとかではなくもう少しソフトなものから徐々に慣らしていって欲しい…
そう沸騰しそうな頭で考えていれば、手首に冷たい感触があった。
カシャ、と、金属の擦れる音がする。


「よぉく似合ってるっすよ。
狩沢さんグッジョブっすねぇ、ほんと」


状況を把握するのに、数秒かかった。
頭がくらくらする。
つまり、私の手首に嵌められたのは……手錠?
彼の口調から察するに、狩沢さんからコスプレグッズとして借りたか貰ったかしたのだろう。
まぁどちらにしろ、今となってはコスプレグッズであろうとも恐ろしい凶器だという事だ。
両手が自由になったゆまっちは、私のスカートを捲り上げつつ下着に手を伸ばす。


「…ね、零時さん、拘束されてそんなに興奮した?
さっきよりもびしょ濡れっすよ」


クツクツと、喉で笑うゆまっち。
何を思ったか、私の足の付け根の部分に顔を近づけ…

ぺろりと、雫を舐めとった。


「や、嘘っ!汚い、汚いよゆまっち、だめ、だめだから、ぁ…っあ!」


下着をずらされて、丁寧に舐め取られる。
馬鹿な私は、簡単に快楽に呑み込まれた。
手錠で纏められた手で、ゆまっちの髪をぎゅっと掴む。
そうでもしなきゃ、おかしくなっちゃう。そう思ったから。


「…駄目とか言いながら、俺の頭抑えつけてんの誰っすかね」


「…っちが、こ、これは…っぁ、」


「はいはい、言い訳は要らないっすよー」


そんなほのぼのと間延びした声とは裏腹に、私の好きな所を熟知している彼はどんどん私を乱していく。
いつの間にか舌だけでなく指まで入れられて、下着も脱がされていた。
抵抗しようにも手錠が邪魔してうまく動けない。
そんなあられもない姿に、何だか涙が込み上げてくる。


「…ぅ、ゆまっち、…も、わたし、っぅ…、…っは」


涙をぼろぼろ流して、ゆまっちに懇願する。
もうおかしくなってしまいそうだ。
いつものゆまっちなら、ここで私の心境を察してくれる。
けれど今日のゆまっちは、いつものゆまっちとは違う。
言うなれば、私に『酷いこと』をしようとしているのだ。


「どうしたんすか?
辛そうっすけど」


耳元で、低く囁かれる。
勿論その間にも、奥深くまで挿れられている数本の指は容赦なくばらばらと動いている。
私はそれらが与える快楽に一々反応して、嬌声を上げた。


「…ぅ、も、もう、おかしくなっちゃ、ぁう、…っはぁっ、」


甘い声や刺激が邪魔して、上手く話せない。
涙目で舌ったらずな話し方をする私は、どれだけ惨めに見えているだろうか。


「…へぇ、そりゃあ大変っすね。
じゃあ、俺はどうすればいいんすか?」


にやにやと笑う彼は、何とも艶美だった。
あぁ、これが『酷いこと』なんだ。
私の言いたくない事を言わせて、恥ずかしさでおかしくなる所を見て。
うぅ、ゆまっちはやっぱりおかしい。
でも、こんな事されて興奮している私も大概、おかしい。


「…っき、きもち、気持ち良く、して、くださ…っふ、ぁ」


「零時さんは、気持ち良くなりたいんすか?」


そんな野暮な問い掛けに、こくりと頷く。
するとゆまっちは、やはりにやにやと笑った。
そして、

「それじゃあ、何で気持ち良くなりたいか、俺に教えて」

と、またも低く低く囁いた。
答えを想像して、顔が熱くなった。
涙が溢れた。
それでもゆまっちにとっては、そんなのも興奮の材料のようだった。
その証拠に、恍惚とした表情で私を見下ろしている。
…支配欲、とか言うやつだろうか。


「…ぃ、いれ、挿れて、くださ、ゆまっち、の、挿れて」


意識が朦朧とする。
だがそんな状態も長くは続かず、ぬるりと彼の指が引き抜かれた事により我に帰る。
羞恥でそれこそ頭がおかしくなりそうな私に、彼は笑いかける。
そして私の蜜で濡れた数本の指を、厭らしく舐めて見せた。


「Yes, my lord.」





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「…っは、はぁ、ぁ!!
ゆま、っぁ、も、いく!むり、ぃ!!」


「駄目っすよぅ、零時ってばさっきから2回もイッてるじゃないっすか。
俺の事も考えて下さいっす、ずっとお預けくらってたんすから」


「…ぅっ、ぁ、顔、や…見ちゃだめ、見ないで!
ゃぁ…っぁふ、」


「またイくんすか?
…しかも顔背けて。
イキ顔なんてさっきから何度も見てるのに、ほんと諦めないっすよねぇ」


さっきの2回だって、顔背けながらイこうとして。
勿論、無理矢理こっち向けましたけど。

そんなゆまっちの独り言と共に、私の理性も真っ白く消える。
叫び声に近い嬌声を上げて、私の頭の中は真っ白くなる。
手錠で両手を纏められているせいで顔を隠す事も出来ずに、また一番恥ずかしい顔をゆまっちに見られてしまった。


「…ぅ、だめ、まだ、そんな激しくしちゃ、ぁ…っ」


「…『おかしくなっちゃう』?
なれば良いじゃないっすか。
いくらでも、おかしくしてあげるっすよ。
だから零時、一緒にイこ」


耳元で聞こえる、甘い甘い声。
私の全てが、それに溶かされる。
涙でぐしょぐしょの私は、一体その時何と答えたのだったか。
全てにおいて必死過ぎて、何も覚えていないのだ。


『…ッゆまっち、すき、ぃ…っ』




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「ゆ、ゆまっち、私のこと零時、って」


「おはようございます、零時さん。
第一声がそれっすか」


呆れ顔のゆまっちが、いつもの格好で部屋の椅子に腰掛けていた。
私は最後記憶がないのだが、彼曰く気絶はしていないようだった。
行為を終えてすぐ寝てしまったらしい。
今は何時だか、見る気にもなれない。眠いし、何より腰が痛い。
それはもう、とてつもなく。


「まぁそんな事より、私のこと、零時って呼んでくれたよね!」


私が起き上がると、ずきりと腰が痛んだ。
慌ててベッドへ横たわる。
そんな私を見て、くすりと笑うゆまっち。


「名前って、特別な時に呼ばれた方がグッとくるじゃないっすか」


だからっすよ、と言い残して、ゆまっちは部屋を出た。
何だか彼の掌で踊らされていた感が否めない。
つまりは全て、彼の考えたシナリオ通りだった、と。
…全く彼は、狩沢さんで言う『隠れ鬼畜』という言葉がぴったりだ。





酷いこと





SSにて、その後を書きたいと思ったりしてます。
隠れ鬼畜ゆまっちに需要があると嬉しいなぁ…





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