さんこいちと朝の話

「風紀委員です、歩さん身嗜み検査のご協力お願いできますか?」

「坂口さん、おはようございます。」

校門前に立っていた風紀委員長坂口安吾に云われ、歩は直立で待機する。安吾が歩の周りを一周して大丈夫ですねと頷く。

「しかし、交際するのは自由ですが節度は守ってくださいね。風紀が乱れますから。」

「......はい。」

「まあ......全面的に中也君に責任があるのだとは思いますが、手綱を握っておくというのも貴女の務めですよ。」

歩はしゅんと肩を落とした。思い当たる節が多く、反省しているのだ。

「そもそも貴女と中也君が如何いう経緯で交際に発展したのか疑問......」

「安吾、その辺にしておけ。」

歩と安吾の前に現れたのは教育実習生の織田作之助だった。歩はぱっと姿勢を正して会釈した。

「おはようございます。織田先生。」

「おはよう、歩。安吾もおはよう。」

安吾も織田の方を向き、おはようございますと頭を下げた。

「安吾、歩の検査は終わったのだろう?次の生徒が待っているし、何なら然り気無く検査から逃れようとしている生徒もいるから程々にした方が良い。」

「逃げ......?あ、こら、待ちなさい!歩さんはもう行って良いですよ!」

安吾は叫ぶように云うと逃げた生徒を追いかけていった。

「織田先生、ありがとうございます。」

「俺は何もしていない。」

織田は校舎の方へと歩き始める。歩もその隣を歩く。

「今日も織田先生の授業楽しみにしてます。」

「そんなに期待はするな。俺は教育実習生だからな。大層な授業はできない。」

「作品の知識や描写の工夫の説明を詳しく教えていただけて。私は織田先生の授業とても好きです。」

織田は柔らかく微笑し、歩の頭を撫でた。

「ありがとう。その言葉を直接聞く事ができて嬉しい。ちゃんと授業ができているか不安だったんだ。」

「私も......ちゃんと伝える事ができて良かったです。私、人と上手く話せないので。こうして織田先生に伝えられて良かった。」

歩も織田を見上げ微笑を浮かべた。

「織田作ー!」

その時、一階の校舎の窓から身を乗り出して手を振る男がいた。太宰である。

「太宰か、おはよう。」

「おはよう、織田作。歩ちゃんもおはよう!」

歩は警戒心を露にしながらもおはようございますと口を動かした。

「何もしないよ、歩ちゃん。あのね、織田作とはお隣同士なんだよ。」

「家が、ですか?」

「そう、正確に云うと部屋がだけど。」

歩は太宰と織田を交互に見て、成る程と相槌を打った。

「それに織田作の授業はとても面白いしね。皆からも結構評判なんだよ。」

「はい、私もそう思います。」

太宰が織田作先生人気者ー!と歓声を上げると、歩がパチパチと拍手をして盛り立てる。

「そんな事はない。大袈裟だ。」

あくまで謙虚な織田に太宰も拍手を送る。何故か理由も分かっていそうにない通りすがりの生徒まで拍手を送っていた。喝采になりそうだったので織田がもう良いと止めた。

「そろそろ始業時間になる。教室に行った方が良い。」

「あ、はい!それでは織田先生、また授業で!」

「ああ、またな。」

歩は校舎の中へ消えていき、太宰も去っていった。

一方中也はというと。

「おい、さっさとしろ。教授眼鏡。歩に糞鯖が近づいてる気がしてならねェんだよ!」

「なら、身嗜みを整えてください!そして早く学校指定の制服を買いなさい!」

「届かねェんだから仕方ねえだろうが!帽子外して来てるだけマシだと思いやがれ!」

安吾の検査にもれなく引っ掛かっていた。

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