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なにかち
がう?
◆ ◇ ◆
何かが、駄目だ。
体が持ち上がらな
い。
見え
ない。聴こえない。
◆ ◇ ◆
何かがいけない気
がして立ち上がった。
脚か、腕か、それとも頭か。
いや、きっとそのすべて。深海に沈められた
ようにどこもかしこも重たくて、すぐに床に縫い付けられた。
何も見えない。
「まだ寝ていないとだろう」
そう、なのか。
◆ ◇ ◆
過ちを犯したような気
がして立ち上がった。
重力が狂いでもしたのか、まるでわずかな
明かりすらも届かない海底に沈められたように全身が重たい。しかし壁にぶつかって、少し体が軽くなった。
上がらない両脚を引きずってまで進むことに意味があるのかはわからなかったが、進まずにはいられなかった。
風が肌を撫ぜて、外に出たことを知った。同時に、呼吸をしていなかったことにも気がついた。
口を開
ける。しかし空気が入ってこなかった。口を開けるだけでは駄目らしい。「ア、ウあ」力んでも変な音が出るだけだった。
長年放置されて藻が生えた水槽のように濁った視界で唯一見えた
仄明かりは、たとえ形が見えずとも月光であ
ることがわかった。
「こんなところにいたのか。曲がり角に左腕が落ちてるって地味に怖かったんだけど――って、あーあ……脚まで崩れちゃったじゃないか。またマチに繋げてもらわないとだなぁ。まだ
清暉は浴びたら駄目だよアイヴィー」
地面に横たわったこの体は、金髪の男によって抱え上げられた。
重力は狂っていないらしい。男は軽そうにしていた。
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