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 一人で生きていけたら――そんな無謀ともいえる考えを初めて持った日から二年の月日が過ぎ、自分の年齢も両手で数えられる最後の一年となった。この二年間はひたすらに『自立』という言葉を前に生きてきた。
 まずは知識。無知は話にならない。さまざまな種類に渡る本を()り好みせずひたすらに読むことで、いまだ飽きずに俺を怖がる村の人よりは多くの――実際に比べたことはないから断言はできないが――知識は手に入れたと思う。
 一文一句取り溢しの無いよう無我夢中で文字を追ってはいたものの、しばらく経った頃に読み返すと前回読んだ時には無かった発見があるのが面白い。それは再読するまでの期間に読んでいた別の本が自らの知識として身に着いていることがわかる瞬間であり、比べる対象のいない自分にとって数少ない成長が実感できる機会だった。
 次に純粋に力。弱いのも論ずるに値しない。初めて熊に遭遇した時に、知識はあくまで生きていくための補助であることを知ったからだ。熊は結局襲ってくることもなく枕になったわけだが。
 鍛えるとは言っても単純に森中を動物たちと走り回ったり、本で見かけた簡単なトレーニングを手当たり次第に試しただけだ。それでもゼロスタートの子供の体には十分すぎる効果があったようで、今では森の奥深くまで不自由なく跳び回れるようになった。俺や積荷で鍛えられたらしい大ガラスほど速くはないが、少なくとも地走鳥よりは早く森を抜けられるだろう。
 そして社会での行動と経済力。週の半分を働くことに費やしたことで、ある程度のお金と順応性を得たと思う。書類が求められるような所ではもちろん働くことはできないが、やる気さえあれば雇ってくれる所などいくらでもあった。年齢のおかげか大人たちは親切にしてくれたし、真面目に働いていれば戦力として重宝される。
 様々な仕事をして学びたいと言えば紹介状も書いてくれた。その分人手が足りなくなれば助けに戻るし、できる限り要望にだって応えた。店の従業員というよりも町全体のお手伝いと言ったほうがしっくりとくるかもしれない。


「もう二年経つんだ……」


 相も変わらずお気に入りのその場所で本を読んでいるなか、ぽつりと漏らした声は湿った空気の中で思いのほか溶け残った。
 しとしとと静かに降る細い絹糸のような雨は草木の色を濃くし、さらにしならせる。この木の下にいればほとんど濡れることはないだろう、そうは思ったものの仕方なく本を閉じた。


「早く自立したいなぁ」


 そう呟いた時、ふと何かにうっすらと体を包まれているような違和を感じた。初めは衣服に濡れ通った湿気が肌まで濡らそうとしているのかと思ったが、どうにも湿気がまとわりついている感覚とは似て異なる。


「……何だこれ」


 疑問に思って自分の体を見てみると、周り数センチにゆらゆらと留まっている不思議な白いが目に入った。朝霧のようなそれは完全に体を包み込むことはできていないようで、波のように不規則に揺れながらも流れ出ていくものもある。
 それを見て何となく自分の体にまとわせるように意識をすると、そうすることが正しいとでもいうように、もやは体の表面で(うごめ)くにとどまったのだった。
 面白いものを見つけた!

(P.5)



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