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 オレたちが住んでいる“流星街りゅうせいがい”と呼ばれる場所は独裁者による人種隔離政策に始まり、廃棄物の処理場として、何を捨てても許される場所になっている。それはなんでも千五百年以上前からだとか。
 そんなわけだから集まるのはもちろん犯罪者や孤児(みなしご)、住処のない少数民族などで、とにかく多種多様な人種がいる土地だ。
 しかし公式には無人となっており、そこに住む住民は社会的には存在しないことになっている。それでも実際に住んでいる住民の推定人口は八百万人だというのだから下手な村や町よりも人は多いだろう。
 この世界では国民総背番号制というものがあり、どんな人であろうともデータベース上では個人情報が特定可能になっている。それでもさっき言った通り、オレたちは社会的に存在しない。つまり、社会的情報を一切持っていない。
 だから周りは自分の生年月日だって知らない奴も多く、血液型なんて尚更だ。親の顔を知らない奴だって珍しくない。
 そうなればマフィアなどの裏社会の人間から重宝されるのは自然なことで、ある程度の年齢になれば引き抜かれる奴だって少なくない。
 別にそのことに対して不満があるわけじゃない。
 普段は廃棄物を再利用することで暮らしているオレたちだが、もちろんそれだけではとても暮らせず、コミュニティから『ゴミの投棄』という名目で提供される武器や資金で水・食事・生活必需品の配給が行われている。
 その供給が途絶えてしまったらと思うと背筋に冷たいものが伝う。むしろコミュニティがこちらに媚を売っているくらいだ、そんな事は起こらないと思うが。
 ……と、ここについての説明はこれくらいにしておこう。そんな流星街という土地に最近変化があった。といっても、大きく変わったわけじゃない。
 マフィアンコミュニティから提供される資金は莫大なものだろう。それでも八百万人を余裕で養えるほどの量は無いはずだ。現に配給されている食事量を見れば五歳児だってそれくらいはわかる。
 だが、最近になってその配給食の量が増えた気がするのだ。それはオレたちの中でちょっとした話題となっていた。


「そういえば、最近配給所に見慣れない奴がいるよ」
「見慣れない奴?」


 マチによると、変わった髪色――なんでも薄汚れた白地に桃色がいくつか混じっているとか――をしていて、どこかの民族衣装らしいものを身にまとっている、オレたちと同じくらいの子供らしい。
 また新たな捨て子かとさして興味のわかない情報だったが、「あの子が来たのと、配給が変わったのがほぼ同じ時期だよ」と言ったマチの言葉に、腹の底から一気に興味が湧くのを感じた。


「行こう」
「どこに?」
「もちろん、そいつの所へだよ」
「アタシは別に時期が被っているって言っただけで、関係があるなんて一言も言っちゃいないよ」


 たしかにマチは配給所にいるらしい新顔が何かしたとは言っていない。けれどマチという女の直感はほかの誰よりも鋭く、それは時に本人すら勘を働かせたと気づかないことがあるほどだ。


「普通に考えれば関係があること自体考えられないことだ。そいつがマフィアからの提供資金の量までとはいかなくとも、全員の配給食の量を小麦一本ずつでも変えられるほどの資金を提供したなんてことがあると思うか?」
「普通に考えれば無いんじゃない」
「ああ、“普通に考えれば”な。だからこそ興味を持ったんだ。もしかしたら期待を裏切らない面白い奴かもしれない」


 民族衣装と言ったが、どこかの村を追われた少数民族の生き残りだろうか。そいつ欲しさにさまざまな組がオークションのようにを増やしているのか?
 現実味の無い推測でも、子供一人の財力でどうこうしていると考えるよりはずっと現実的だ。
 胸を弾ませて立ち上がるとマチは呆れたように「わかった。付いてくよ」と言って盛大にため息をついた。

(P.23)



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