論
――青天の
霹靂?
威厳を示すように建つのは窓
硝子いっぱいに青空と白い雲が映り込んだ、大企業を思わせる風貌のビルディング……。
コホン、少し思い返してみましょう。
おれたちは三対三の陣取りバトルをしていた。バトルステージ内にAからCまでの五つ存在するポータルキーを三分間のバトル終了時に多く制圧していたチームが勝つというルールだ。
攻撃、防御、治癒、ワープ、バフ、デバフ――無数にあるカードの中から四枚を自身のデッキとして唯一無二の能力を持つ仲間と組んだ戦略で、殺し、防衛し、隠れ、侵略し、そしてチームカラーにポータルキーを染めるのがこの電脳空間で行われるゲームである。
すべてのポータルキーがほぼ一直線上に並んだ、青空が眩しい開放的なバトルステージ――ちゅら島リゾートにて、今日は一度も
摘まれませんように、きちんとCへ行けますように……と緊張しながら、おれはCポータルキーを制圧するために開幕直後『どこにでもいけるドア』
*1を発動させた。
相手チームにジャンヌさんがいたから、鉢合わせするだろうなあ、何としてでも先に制圧しないとなあなんて考えながらのことだった。
おれのアビリティ『葉見ず花見ず』は、味方に摘まれた場合は敵全員を五秒間
気絶状態に、敵から摘まれた場合は敵全員を十秒間
被毒状態にするというものだ。
数いるヒーローの中で唯一誰からも攻撃可能なヒーローという四面楚歌的なものだから、重要な局面で味方からキルされることも珍しくない。
特に敵のチームレベル
*2が9に達してしまったバトルではおれは摘まれまくる摘まれまくる。それはもう、葉どころか花すら見られることもなさそうなほどに。
ステータスが1.00を平均とするこの世界で、おれは悲しいことに防御倍率が0.40、体力倍率も0.40という最弱っぷりだからそれはそれは摘みやすいらしい。
大ダメージカードなんか発動されようものなら、ガードを張っていない限り「いけませんお客様!」なんて言う暇も無く「いけま、ッアーー!!」だ。中ダメージカードでも即死なんて全く珍しくない。
余談だが、防御倍率が0.50――本来の最低倍率は0.50だ。おれもせめて0.50がよかった――のテスラさんの体力倍率は1.25、体力倍率が0.50のコクリコさんは防御倍率が1.40もある。あゝ悲しきかな、やっぱり最弱。自分で言っていて一層悲しくなった。
しかしアビリティが盾となってくれているのか、敵は考えなしにおれを摘もうとはしない。だからこそ、先に前線でCポータルキーを制圧してしまえば時間稼ぎができるという寸法だ。
おれを摘んだ場合に受ける毒は最大ライフの50パーセントをも削り取るからして、チームレベルのアップを引き換えに毒を受けたいかと問われれば迷わずにはいられないだろう。
ちなみに味方になったときにおれを一番多く摘むのはサーティーンさんだったりします。
あの死神め、自分が回復したいからとおれをすぐナタデココ
*3にしてくる。
んま、おれが唯一誰でもキルできるヒーローであるように唯一アタッカーにもガンナーにもなれる彼のほうが前線に残るべきヒーローではあるし、彼のアビリティがキルをしたら自身の体力が50パーセント回復というものならおれは甘んじて摘まれるのが良いとわかってはいますけどね。
それでも攻撃を受ければそれなりに痛い。……ちょっと強がった。とーーっても痛い!
そんなわけで、おれにつけられた通り名は『死んだら
UR』です。うわっ……おれの通り名、雑魚すぎ……?
某ウェブ広告の真似は一旦置いておきましょう。URカードに匹敵する効果があることからそんな通り名となり、今では倒されてしまいそうな味方がいたら敵との間に身を投げて盾になるのが主な仕事になっていたり。枠組みがスプリンターという足が速いヒーローなせいで駆けつけやすいところがなんとも悲しい。繰り返すが雑魚すぎる。
愚痴になってしまうけど、サーティーンさんの腹立つところは自分でキルしておいてチームチャットで「ドンマイ」と流すところなのだ。お、煽りか?
閑話休題。俊足が売りのスプリンターなのに移動カード『どこにでもいけるドア』をデッキに組み込むことが求められるのはそんな哀れなおれの特徴の一つだった。
しかし『どこにでもいけるドア』を使った先の景色はどちらのチームカラーにもなっていない灰色の未制圧ポータルキーなどではなく、全く見覚えのない建物だった。案の定おれと同じく『どこにでもいけるドア』を使ったらしいジャンヌさんの薄いブロンドが隣で風にさらさらと遊ばれている。
バトルステージですらない見知らぬ土地に二人ぼっちになったおれたちは無言で慰めの握手をすることしかできなかったのだった。
「キヒヒッ」
どうやらとーんでもないバグに巻き込まれたらしいですね!
脚注
[*1] どこにでもいけるドア木属性の移動カード。前方のポータルキーへ瞬間移動する。
↑[*2] チームレベルレベル0で試合が始まる。敵を倒すごとに1ずつ上がっていき、上限は9。レベルが上がるとステータスが強化される。
↑[*3] ナタデココキルのスラング。キルされた体が消える際、無数のキューブが散らばる様子を例えた言葉。
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(P.2)