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 目的地に到着して早々にホームズとワトスンの不在が発覚した。ダートムーアという地へと出張に行ってしまったらしい。作中にもある九月三十日の出来事なのだとか。
 しかしそれがわかったところで進展はない。お助けキャラクターを頼れないという面倒臭さに一瞬だけ眉を寄せた。


「さあさあお上がりなさい。暖かいミルクティーでも入れてあげますよ」


 メガネたちがベイカーストリート遊撃隊イレギュラーズというホームズに協力するの浮浪の子供たちと勘違いされ、下宿の婦人は裏のない笑顔で俺たちを招き入れた。
 少年探偵団というチームを作っているらしい子供たちはその勘違いに頬を緩めていた。
 絆を“形”にするのは心地好いものだ。どんな時も心の拠り所となってくれる。時には道標としてあるべき姿へと正してもくれる。さながらつる性植物の支柱だ。


「ホームズのことだから、ジャック・ザ・リッパーに関する資料を集めているはずだよ」
「じゃあ、みんなで手分けして探しましょ」


 通されたホームズの部屋で言われるがまま探索を始める。ゲンタたちの会話を聞く限り、自国語に自動で翻訳されて読めるらしい。
 ぐるりと部屋を見回した後子供たちでは手が届かない所に収められたファイルを開くと、そこにあったのは見慣れたハンター文字でも故郷の文字でもなくルーレットのように次々と変わっていく文字だった。


「……はは、なるほどなぁ」


 推測が確信に変わった瞬間だった。
 俺はマチのように勘が優れているわけではない。持っていた突拍子のない推測を信頼していなかった。だがエラーを起こす紙の資料を前にして確信を持てないほど可能性の信者ではない。
 ――俺がじゃないってことか。
 真っ先に湧いた感情は“面倒臭い”だった。帰る方法は知らずとも帰れない気はしなかったからだ。解決はしていなくても、この圧倒的な知識不足と仲間と連絡がつかないことの答えが見つかったのは喜ばしい。
 しかし資料探しすらできない役立たずぶりには苦笑を溢さずにはいられず、このチームへの貢献の仕方を改めて考えなければならないと足もとのメガネに視線を落とした。

(P.17)


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