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side:Conan Edogawa


 ヒロキ君に別れを告げ、目が覚めると明るく眩しい会場の光景が目の前に広がっていた。
 大人たちの安堵あんどの表情や子供たちの歓喜の声、多くの明るさが会場を埋め尽くし、現実に帰ってこれたことを五感で実感する。


「コナン君、生き返らせてくれてありがとう!」
「結構頑張ったよな、オレたち!」
「凄い冒険しちゃいましたね!」


 はしゃぐ元太たちを前にしてオレの気分も気球のように浮く。あの時諦めなくてよかったと心の底から思った。
 眼前に迫りくる死をただ待つ気分は、あの人の言う通りたしかに不快だった。――不快
 どうしてあの人は過去形にした? コクーンではない別の何かで死を迎えるような事があったのか?
 思えばあの人の言動はどこか変わったニュアンスを含んでいることがあった。今まで出会ったどんな人とも違う空気を持っていた。
 ……つーか、どこだ?
 蘭や父さんとも会話を済ませ、そこそこの時間が経ったというのに一向にアイヴィーさんの姿が見えない。
 今度は博士と灰原を引き連れてやってきた元太たちにアイヴィーさんを見ていないかと尋ねても首を横に振るだけだった。


「アイヴィー君って、君らの中になぜか混じっていた大人の彼じゃろ?」
「何で知ってんだ博士?」
「ゲームの音声は聞こえておったからのお」
「ああ、そういやそーだったな」
「どうしたんです、博士」
「おお、優作君。それが、アイヴィー君がどこにもいないらしいんじゃ」


 オレたちの輪に入ってきた父さんは博士の言葉を聞くと顎に手を当てて低く唸った。
 アイヴィーさんに会ったらいろいろと訊きたいことはあるがまずは感謝を述べるべきだろう。オレは解明という手段でゲームをクリアしたが、それはアイヴィーさんがピンチを支えてくれたからできたことだ。


「彼のコクーンは調べましたか」
「ボク、見てくる!」


 善は急げだ。もうすっかり慣れた短い脚でパタパタと走り、再びコクーンの並べられたステージへと向かった。早く早くと気持ちが前に出る。
 ステージ上に整列したコクーンは当然のように乗客はおらず、大きな口を開けているかのように蓋が上がっていた。しかしよくよく見れば繭の形を保ったものが一機静かに隠れている。
 期待が内臓をぽかぽかと温めて、それは蒸気機関車における石炭のように原動力を生んだ。


「アイヴィーさん……じゃない?」


 駆け寄ると、ガラスの向こうで昏睡しているのは不思議な民族衣裳に身を包んだ十歳前後の子供だった。
 伸ばしているというよりは切られていないと表現するのが正しそうな髪と、持ち上がる気配のない花瞼かけんが性別を特定させてくれない。
 かろうじて垂れがちな目尻をしていることがわかった頃、父さんたちもオレに追いついてきた。


「あれ? これ、アイヴィーお兄さんが乗ったコクーンなのに……」
「本当か、歩美ちゃん!?」
「うん! スタッフのお姉さんがアイヴィーお兄さんの帽子を預かってたからわかると思うよ!」


 何でアイヴィーさんが乗ったはずのコクーンに、見知らぬ子供が乗っているんだ? この子は誰だ? 何で目を覚まさない?
 疑問が次々と湧いて出てくる。
 父さんと博士はこの状況を受けて携帯電話を片手に急いでどこかへと行ってしまった。
 閉じられたままのコクーンを開けようと必死で力を込めてみても子供の力などたかが知れている。繭はびくともせず鎮座を続けていた。


「この子だけ死んじゃったんじゃないよね?」


 歩美が不安そうに眉を下げて尋ねてくるがその問いに答えられる者はここにはいない。
 視線を逃がした先の硝子がらす越しの子供は作り物のように静寂を保っていた。

(P.28)


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