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※文字のみでの把握が難しい内容であるため、資料(家系図)を作成しました。個人での保存のみご自由にどうぞ。内容理解にお役立たせください。家系図 秘密のノートの一ページを広く使ってキョウスケが書いたシタラ家の家系図にハンター語で読み方を書き加えると、キョウスケは二段で驚いていた。
どこからともなく本とペンを具現化したことと、俺が文字を一切読めなかったことの二つだ。流暢に話すから読み書きも問題ないと思ったらしい。
文字が読めないことの苦労より言葉だけでも不自由なく通じたことへの安心に心が寄るが、コクーンの時も文字に苦しめられたことを思えば、やはり少しだけでも学んでおくべきか。
「確認させてくれ」
「構わないよ」
「エミを問い詰めて父親の死の真相を知った際、彼女が転落死したのはキョウスケが殺したわけではないんだよな」
「嘘はつかないよ。
詠美叔母さんの件は本当にただの事故なんだ」
「言っただろ、ただの確認だ。疑ったり責めているわけじゃない」
ステンレス製のミルクピッチャーが赤みの強い店内のライトを優しく反射している。
「その後キョウスケは死人のイニシャルが音階順になっていることに気づいた。さらに、これから復讐する奴らに自身を加えると綺麗に一周することにも」
「そう、そして僕は順番通りに
降人さんを殺した。ベランダから突き落としてね。ここで初めて人を殺したよ」
ぬるいコーヒーを口に含む。温度が奪われたせいで少しトゲっぽく感じた。「なあ」家系図の一箇所を人差し指の先で軽く叩く。
「このハスキって子はどーすんだ。さっき言ってた屋敷の相続人ってこの子のことだろ? ご立派な屋敷が自分の物になろうと、汚い欲とその復讐で一族がみんな死んだなんて笑えないぞ」
「
蓮希ちゃんならきっと上手くやっていけるさ。まあ、執事もいるしな」
キョウスケも俺に続いてコーヒーを一口飲んだ。
表向きではクルタ族の唯一の生き残りであるクラピカの境遇よりはマシかもしれない。ああ、彼には本当に可哀想なことをした。
――「エルはどこから来たの!? そこには何がある!? オレ、早く森の外に出たいんだ!」
――「ちょ、ちょっとクラピカ……あんまり一度に話すと困らせちゃうよ」
――「クルタ族は保守的な奴らしかいないと思ってたんだが……お前たちはいい目をしてるよ」
――「エヘヘ……ジイサマに取られちゃったけど、パイロと『
D・ハンター』って本を読んだことがあるんだ。あれを見ても閉じこもっていたいって奴がいるものか!」
俺がクルタ族の小心さと能力を侮っていなければあの子も家族と一緒になれたはずだったのに。
口の中にはコーヒーのそれとは似つかない、甘酸っぱさと舌をつねるような辛みが思い起こされた。
「キョウスケは生きたいと思わないのか?」
「僕だって人間だぜ……。全く思わないわけじゃない」
「なのに
Hをハスキじゃなくハガにするんだな」
「どうか彼女は殺さないでくれ……良い子なんだ」
「それはアンタ次第だな」
もしキョウスケが死ねない状況に陥ったら俺は契約の遂行のためにハスキを殺すことになる。最優先するべきは音階の完成だからだ。
「僕は……選択を間違ったかな?」
「世の中に正しいことは確かに存在しているが、俺は正しさよりも“正しいつもりでいる”ことをより大切にしている」
「僕も調一朗伯父さんたちと何も変わらないな。手を出してはいけない
君に手を出したのだから」
「倫理と最適解が一致しているケースはあまり多くない」
会話というキャッチボールを
止めた俺たちは、しかし同じ動きで受け皿へとカップを戻した。
残りのすべてはチョウイチロウの誕生会で実行するらしい。
自殺という終わりがあるからか、説明されたトリックは完全犯罪となり得るものに仕上がってはいなかったが、一人で立てた計画にしてはよく練られていた。少しの誤算では崩れないはずだ。
「アイヴィー君はどんな方法で調一朗伯父さんを殺してくれるんだい?」
窓の外へ投げていた視線をキョウスケに戻す。数十分前とはすっかり顔つきが変わっていた。
同じ凶徒に出会えたことが心を
解したのだろう。
復讐に心が燃やされ、いつの間にか退路を失っていた不安と孤独を全く気にならない者はそういない。振り返った道にパンくずが落ちていることで安らぎを得るのが人間なのだから。
「めでたい日には花を贈らないとな」
どの世界もこればかりは変わらない。変われない。
たとえ鉄鳥が飛んでいようとも、オーラを欲望のままに操れようとも。
蟻を踏んで前進し、花を手折って喜びを共有する。
それが愛される人間の姿だ。
(P.44)