弟は小さい頃から何でもできた。
妬む気にもなれなかった。それほどまでの実力差。別にオレは運動音痴なわけでも勉強ができないわけでもない。むしろ良い部類に入っていたと思う。それでも弟ははるか高みの存在で、オレがどれだけ渇望したって届きもしないところをいつだって易々と超えていくのだ。
父さんは実力でオレたち兄弟の扱いを差別するわけじゃない。どちらにも平等に厳しく、赤司の名に恥じぬよう。それが逆につらくて堪らなかった。どうせなら差別でも区別でもしてほしいと何度願っただろう。弟も兄のオレを見下すことは一度たりとも無かったし、自分より劣った兄と平等に扱われても文句も言わなかった。それどころか兄としてオレのことを慕う様子まで見受けられた。すべてにおいてオレはお前よりも出来損ないだというのに。
兄さんと呼ばないでくれ。そう叫びたかった。
この生まれながらの実力差、当然父さん以外の親族たちはオレと弟を比較した。悲しいとも悔しいとも思わなかったのはやはり差が圧倒的だったからだろう。彼らが口にしていたのは紛れもない事実なのだ。当たり前の事実を提示されても「はいそうですね」くらいにしか思わないだろ? ただ、「可哀想だ」という言葉にだけは苦笑いすらも上手く作れていたか自信が無い。
こんな正反対の似ていない兄弟で、唯一顔はそっくりだとよく言われた。弟も「僕の二年後の顔はそうなるのか」と言っていたから本当に似ているんだと思う。弟の言うことはいつだって正しいから。
弟がどうしても苦手で仕方なかったオレにはわからなかった。会話はしても、もうずっと長い間弟の顔をまともに見れていないのに、似てるかどうかなんてわかるはずもない。似ていると言われても「そうなのか」と思うことしかできなかった。
弟は心優しい。徳もあるし、常に最良の選択をする。それなのになぜ苦手なのかは自分でもわからなかった。覚えている一握りの記憶はもう十数年も昔のこと、幼い弟と目があったその時から駄目だと思った。
もともと数えるほどしかない弟との繋がりは、オレが東京ではなく京都の学校に進学すると決めた二年前から、もう赤司の血くらいしか残っていなかったのではないだろうか。
「……清々しいくらいに雲一つないな」
兄さんのことは好きでしたか
敬具
赤司征十郎様