例えば今まさにこの瞬間交通事故に遭ったとして即死して、もし、魂というか精神というかもし欠片でもそういうもが残って、自分は死んだんだなと思うとして、きっとそれは悲しいことじゃないと思う。いやだもっと生きたかったんだやりたいことがあったんだと思う可能性もないことはないかもしれないけれど、でもやっぱりたぶん自分はああ死んだんだときっとすごくひどくこの上なく穏やかで満たされた気分になるんだろう。そこまで思ってああしにたいなあと思った。しにたいなあ。眠たい。自殺というのは現代社会においてやりにくいものとなっているので昔のひとのように山に行って死んでしまうなんてことは簡単には出来ない。そこで見つかったら事件じゃないかとかいやどうみても自殺でしょうとか議論されてそのまま放置してはいけないという法律のもと俺の体はきっと解体されて鑑定されてああやっぱり自殺ですねとか言われて家族に連絡されて家族はきっと驚いて学校のトモダチは・・・そこまで考えてふと気分が鬱屈したのを感じて目を閉じた。億劫だなあ。口に出ていたのかその言葉に呼応するようにとなりに居た友人から何が?と聞かれて困った。いや、しにたいなあと思って。そういうとその友人は明るく笑ってもしおまえがしんだらおまえの葬式ですきな曲かけてやるよと言った。でもおれ出来ればしんだってことも分からないようにっていうか発見されたくないんだよねしんだあと。じゃあおれの家の裏山貸してやるよ。裏山? おれんち金持ちだから郊外に山もってんの。だからおまえの死体そこに埋めさせてやるよ。マジ? まじまじ。 そんな会話をしていたら先生にそこうるさいと言われた。まわりでおれらの会話が聞こえていたやつらは心なしか若干顔を引き攣らせている。それを見ていると少しだけここであと小一時間じっと教師の話を聞くためのテンションというものが少しだけ上昇したのを感じた。
 昼休み。蠅が窓と網戸の間で行ったり来たりして、しかし外に出ようにも中に入ろうにもにっちもさっちもいかないという塩梅でもがいているのを眺めていると、突然視界がふさがれた。さきほどの友人である。香水の匂いで分かり、その名前を呼ぶと嬉しそうに笑ったのが聞こえた。なにすんだよ。いやちょっと聞きたいことがあって。なに? ぶんぶんぶんぶん蠅が網戸とガラス窓の間を飛び回る。すこしうるさいような気がした。あのさ、おまえ死ぬ時ってなんかその方法とかって考えてんの? まだ。朝の八時に新宿で飛び降りするか山奥れ練炭自殺するかどっちにしようかなくらい。人様に迷惑かけるかかけないかのどっちかじゃねえか。そうだよ。どっちにしよう。あのさ、決まってねえならそれおれにやらせて。え? 振り返る。すると蠅を見ていた俺と同じようにその友人は窓を見つめていた。しかし友人が見つめているのもが蠅であるのか窓それ自体であるのか景色であるのか判別することが出来ない。おれの視線に気づいたのか友人はふと視線を下すと、笑った。おれ、人生でいろんな経験をしたいと思ってる。…そう。だから、人を殺す経験をしてみたい。そういってにっこり笑った友人にこいつ頭イッてるなと思いつついいよと言って頷いた。友人はひどく嬉しそうな顔をして、だいじょうぶ、おまえがしんだってことはおれ以外誰にも分からないようにするからと言って笑った。窓に視線を戻すと、蠅は内側のサッシの隅で動かなくなっていた。おれの視線に呼応するように友人の手が動いて、窓をスライドさせた。









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