STORY | ナノ

▽ 君にブーケを届けたい!


「ねぇラム。そういえばこの前、お城の兵士さんと一緒にいたけど、一体なにを話してたの? えっ? ううん、他意はないんだけどね、ちょっと気になって。うん。うんうん。へぇ〜兵士さんがハンカチを。それでラムが拾ってあげたんだ。ラムは優しいね。ハンカチといえば落としてしまったハンカチを、後ろを歩く異性が拾ってくれてそのまま恋愛関係に発展、って展開は定番中の定番よね。ハンカチを拾ったラムが兵士さんにそれを渡すと、「ありがとうございます。親切な方なんですね」って律儀にお礼を言うの。ラムは当たり前のことをしただけ、って適当に返すんだけど、その素っ気ない態度に惹かれてしまった兵士さんが、「よければ今度お食事でもどうですか」なんてラムを誘って、それでそれで…え? そんなことは起きなかった? そんな! きっと兵士さんは見た目によらず案外照れ屋さんでラムを食事に誘えなかったのよ! だってラムはこんなに可愛いんだもの! だからね、その場ではお礼しか言えなかった兵士さんだけど、ラムのことを思い出したら眠れない日々が続いてしまいついにはラムに急接近! 一本の薔薇を送ってこう言うの。「僕にはあなたしかいない…」なんて、むふ〜! ま、待ってラム! これは決して遊んでいるとかからかってる訳じゃないのよ? ただ、私の中の女子力向上委員会がラムを幸せにしたいってそう叫んでいるというか…。ええっと、例えばね、ある日ラムが街で人気のあるお店に足を運んでいると、その人気さに嫉妬した向かいのお店の刺客が現れて、店内は大パニック! あっという間に出入口は封鎖されてしまい、店員さんもお客さんもみんな人質となってしまうの。どうにか反抗しようとするラムに犯人は銃を向けるもなんと手に持っていた銃は弾け飛び、「誰だ!?」、衝撃を受けた方を見るとそこには立ち上がり片手を犯人の方に向けている男性が一人! 「可憐なお嬢さんに向けていいのは賞賛と花束だけだ」。男性が動いた次の瞬間、犯人は地に伏せていて、「ただ、どれも貴方を輝かせる為の材料にしかならないがね」って、ラムの手を取りそのまま二人は行方を眩ませて…うひょー! チアーズスカイハイ! え? 私なら人質さえ作らせない? わ、分かってるよ! ラムはとても強くて凄いもんね。決してラムのことを貶めたいわけじゃないのよ。ほら、女性のピンチを男性が助けてくれるのって、お話の中では定番中の定番。かつ乙女の永遠の憧れじゃない! そして助けられたヒロインと主人公の恋を巡る物語が始まるの。紆余曲折を経て結ばれた二人は晴れて夫婦に。そんな中新たな刺客が現れて──!? ううっ、結婚おめでとうラム。式には呼んでね。私の分も幸せになってね。スピーチも任せてね。ブーケトスだって私の女子力をフル活用して必ず受け取ってみせるわ。二人の間にどんな子ができるんだろう。きっとラムに似て優しい子ね。肌の色や目の色って遺伝するのかなぁ? もし旦那様が色白殿方だったら中間色? も、もしかして、シマウマの如く二人の色があれこれしちゃったり…!? それはそれで素敵というかなんと背徳的な…! いけない鼻血がっ! …。……。…ふぅ、なんとか一命を取り止めたわ…。そうだ! ねぇこんなのはどう? もしもラムの未来の旦那様がお医者様だったら、二人は世界各地を放浪する恋人同士。ラムは彼の助手として日々を過ごすんだけど、ある日訪れた町で流行っているという伝染病にラムもかかってしまうの。現在医療の世界では明確な治療の術は見付かっておらずどんどん衰弱していくラムに彼は…って、いやー! こんな悲劇的なお話、対私ならともかくラムには似合わない。なにより私が許せない! ラムにはもっと幸せな家庭を築いてほしいの! 例えばお菓子屋さん…そう、パティシエとか! 二人は街でお菓子屋さんを経営していて、街での評判は上々。毎日列がお店の外に続くくらい並ぶ、甘くて美味しいと噂のお店なの。なにより二人の関係が、お菓子よりも甘いですねなんてお客さんに言われちゃったりしてぶはぁ! 恋愛エクストリーム! ってえ? え? どうしたのラム?」
 ようやくこちらの世界に戻ってきてくれたエルフェルトに、ラムレザルはほっと息を吐いた。リビングに備えられたソファーに二人は腰掛けている。向かいでは同じくソファーに腰を掛けたディズィーが、エルフェルトの話を微笑ましそうに耳を傾けながら編み物を編んでいた。
 エルフェルトの妄想癖は今に始まったことではない。以前のラムレザルならば煩わしいと感じたかもしれないそれは、今となっては楽しそうにしているエルフェルトの一面が見られる機会でもあったので、むしろ好ましいとさえ思っていた。しかしある一言がラムレザルの中で引っ掛かり、どうしても彼女を止めなくてはいけなくなってしまった。どうしても流れてくれないのだ。引っ掛かって引っ掛かって、自分の中にすとんと落ちてくれない。きっとこれは心がそれを認めてないからだ。
「エルは?」
「えっ?」
「私のことばかり。エルは幸せにならないの?」
 ラムレザルは不安げに目を伏せた。まさかそんな顔をされると思っていなかったエルフェルトは慌てて首を横に振る。
「そんなことないよ。私も幸せになりたいもの。でもね、ラムはあまりそういうの、頓着なさそうというか…。ラムが幸せだと私も幸せなの。だから私よりもまず先にラムに幸せになってほしいというか、あわよくば二人で一緒に式を挙げたいというか…」
「じゃあ私がエルと結婚する」
「うん! それがいいとおもっ…えぇ!?」
 予期せぬ返答にエルフェルトは素っ頓狂な声を上げた。それでも構わずラムレザルはエルフェルトに迫る。がっしりと手を掴まれ、エルフェルトは思わず肩を大袈裟に揺らしてしまった。
 なにかの冗談かと思ったが、ラムレザルは冗談があまり得意ではないことをエルフェルトは知っていた。なにより真剣な顔で、しっかりとエルフェルトを見据えている。
「今のご時世、法や人は許さないかもしれないけど本人達がそれを強く望んでるならそれを咎める権利は人にはないと聞いた」
「それ、誰から聞いたの?」
「ソル」
「ソルさん!?」
「それとも、エルは私と結婚するのは嫌だった…?」
 力強くこちらを見つめていたココアブラウンの瞳が不安気に揺れる。
「エルにとって私は違うじゃないの? 違うなのは私だけだったの?」
「そうじゃない。私もラムのこと、好きよ? でも本当に、私なんかでもいいの? ラムにはきっと素敵な人がたくさんいるのに」
「でも、私だってエルに幸せになってほしい。エルが幸せを強く望むなら、私がエルと結婚する。エルを幸せにする。私にとってエルは特別な違うだから」
「ラム…!」
 エルフェルトは目頭が熱くなるのを感じて、すんと鼻をすすった。掴まれた手にそっと自身の手を添える。そして満面の笑みでエルフェルトは口を開いた。
「じゃあ…じゃあ、まずは二人で新婚旅行に行かないとね」
「二人とも、お夕飯までには帰ってきてね」
「はいっ!」
「私の知っている新婚旅行とは違う…?」
 ディズィーの、あくまでも近くの公園に遊びに行く子どもに対するようなそれに、ラムレザルは首を傾げるのだった。



2019/04/20



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